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有罪 60
「これは、君が持つべきものだろう?」
「は?」
「これは……」
そう言いかけたアキヨシは自分の手にはまる指輪に怯んだように見えた。
式の前の様子とは違い、酷くうろたえてどこか迷子の子犬のように思えてしまって、つき返そうとした手から力が抜けるようだった。
「 ────じゃあ、オレが捨てておく」
「っ!」
およそめでたい日を迎えた花婿らしからぬ顔色で動揺したアキヨシにさっと背を向け、振り切るようにして姉の方へと向かう。
さすがにそこまできて話すこともできなかったのか、同僚なのか友人なのかはわからなかったが人に囲まれて追いかけてはこなかった。
小さな輪っかで、重さも軽いもののはずなのにどうしてか存在を主張してくる……
「……不燃かな……あ、質屋か……」
妙に重く感じる胸ポケットをぽんと叩いた。
流れる幼い頃からの写真のスライドを、BGMの音が大きすぎてうるさいと思いながら眺める。
会場中は新郎新婦の幼い頃の写真に温かな笑いが起こっていると言うのに、オレは曖昧な表情のままだ。
小さな頃は今よりもっと色素が薄くてハーフのようだったんだとぼんやりとながめてから、姉と自分は本当によく似ていたんだと客観的に思う。
アキヨシの好みがこの手の顔立ちなんだと理解すると共に、胸ポケットの中の金属を一分一秒でも早く処分して、自分の目の前から消したかった。
結婚式……披露宴はどれぐらい続くものなのか?
会社関係者も随分と呼んであるようで、あちこちで酒の入った者同士があーだーこうだと喋り始めている姿も見る。
アキヨシの上司なのかもしれないし、父の会社の部下なのかもしれない、そんな人達にとっては幼い写真なんてどうでもいいことのようだった。
オレも本来ならそっち組だ。
姉と一緒に過ごしているし、スライドに映された写真は見たことのあるものだったから、そこまで興奮して見ることもできなくて……
「続きまして、こちらは花婿の秋良さんです!」
朗らかな司会の声が明るく紹介するが、スライドに映っているのはむっつりとまではいかないが、にこりともしない生真面目な表情で直立不動で映っているアキヨシだ。
今がこれなのだから小さな頃はこうだろう! と言う考えを裏切らないそれは、背後の看板から高校の入学式と言うこともあって緊張しているのだろうとはわかってはいたが……
それでも、今と変わらないのだから、思わずオレはくすりと笑ってしまった。
けれど、姉が赤ん坊の時から写真を流していたのに対し、アキヨシの写真は高校生のその写真が始まりで、あっと言う間に今のアキヨシになってしまっていたから面白味は半減だった。
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