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有罪 61

 何か鼻で笑ってやれそうな写真でも映れば別だっただろうに…… 「結婚式じゃ 無理か  」  結婚。  目の前の料理に手を付ける気にもなれないまま、大きな音と人々の祝辞の言葉の真っただ中にいるのに、オレはどこかぼんやりと切り離された世界にいるかのようだった。  震えて、泣いて、喚いて、ふざけるなって怒鳴りながらこの場をめちゃくちゃにしてやれたなら多少すっきりはしたのだろうけれど、照れくさそうに笑う姉を見ていたら到底そんなことはできない。  きっかけがどうであれ、前向きにとらえて幸せそうにしている姉の邪魔をすることに対して、オレの天秤は揺らがなかった。  姉の幸せを考えるなら、何もバレていない今のうちにきれいさっぱり切れてしまうのがいいのは理解できている。  頭では、理解できている。  堅苦しそうな顔を崩していないアキヨシの写真を眺めながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。  レンガ造りの階段を下りていき、突き当りの扉を開くとかろん と木製の柔らかなドアベルの音が響く。  見慣れた間接照明に照らされた店の中、カウンターに立っていた店長が「準備中で……」と言いかけてぱっと顔を輝かせた。  ちょっと見ようによっては胡散臭いなって思うようなたれ目に小麦色の肌、少し長めな髪も相まって印象はチャラかったけれどすこぶる面倒見のいい人だった。 「どうしたの? 七五三?」 「ぅ  」  自分がスーツに着られている自覚はある。  あるだけに店長の茶化す言葉には苦笑いが零れてしまって…… 「結婚式ですよ、これ……食べます?」  引き出物のお菓子の入った袋を掲げてみせると、ちょっと苦笑のようなものを返される。 「食べないの?」 「んー……お菓子よりお腹に溜まるものの方がよくて」  ね? と首を倒してみせると、カウンターの向こうで小さく肩をすくめ返されてしまう。 「じゃあそれをもらう代わりにオムライス作ったげる」  目の前のスツールを指し示されて、言葉のままに座るオレを迫力の出にくいたれ目が困ったように見つめる。 「なんですか」  慣れない黒髪にスーツと言う姿が物珍しいのか、また何かからかわれるのかと思うもののじっと見つめるだけで……居心地が悪くてもじもじと体を揺する。  唐突に伸ばされた店長の手が頬のわずかに上の辺りをさまよい、困ったように引っ込んでしまう。 「保冷剤いる?」 「な……なんでもないんで……いらないです」  思わずささっと目元を覆い、腫れ上がるほど泣いた覚えもないのに と確認する。  指先に触れる感触は……どうだろうか? いつも通りのような気もするし、少し熱を持っているような気がしないでもない。  

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