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有罪 63
「最近、妙にやつれてるって思ってたんだけど、それはお姉ちゃんの結婚が原因?」
店長は喋りつつオレの口にオムライスを入れるのに余念がない。
確かに美味しいオムライスだったが、間髪入れずに突っ込まれては返事をしようにも何もできなくて……
懸命にスプーンを躱して何とか隙を作ると、「なんですか⁉」と大声を張り上げた。
「……恋人が原因?」
「えっ 」
さっと店長の指が左手の薬指を摘まむ。
随分と緩くなっていた指輪だったけれど、確かにそこにはまっていたのだと主張するように痕は残り続けている。
指先でそれをなぞるようにしてから、店長は小さく溜息を吐いた。
「別れたの?」
「っ!」
思わず飲み込んだはずのオムライスが喉につっかえたような気がした。
けほけほとわざとらしく咳き込んでみせて、なんとか話の内容を逸らすことはできないかと挑戦してみるも、店長は話題を変える気はないようでじっとこちらを見つめている。
別れた と言うのだろうか?
いや、自然消滅?
事故で会えないうちにオレの姉と結婚したんですよ とは言えないから、言葉を探して視線をさまよわせた。
「えと……そう、だと、思います」
別れるとはっきり言葉が欲しかったわけじゃないけれど、相手が結婚してしまったのだからもうこれ以上のオレ達の関係の進展はないのはわかり切っている。
それよりも前に、事故って以降、一度も連絡がなかったのだから、もう察しろよ! って状態なんだと思う。
本来なら、きちんとわきまえてアキヨシに話しかけたりしないのが大人のマナーだったのかもしれない。
「じゃあ、この指は空っぽ?」
窺うように尋ねられて、痕だけを残した指を見つめる。
空……何もない、空虚な……何もない……
「うん、また振られちゃった! 『ケイゴくん残念でしたね次があるよ会』を開催してくださいよ!」
努めて明るく言ったのに、店長の表情は変わらない。
むっとしたような表情で、オレは機嫌を損ねちゃったのかなって思って、思わずスツールの上で背筋を伸ばした。
「今回は、……開かなくてもいいかな?」
「え? ええ! それはもちろん! オレがしてもらう方だし……そんな、しなくてもいいならその方がいいんだから……」
しない と言われてちょっとショックだった。
今までの失恋を乗り越えることができたのも、店長たちが酒を飲みつつ一緒になって大騒ぎしてくれたからだ。
だからオレは今までの恋の終わりを受け止めることができていたと言っても過言じゃない。
それを行わないと言われてしまって、残念なようなちょっと複雑な気持ちだった。
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