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有罪 66
「でも 」
ぽつんと返したのは、恋愛が片一方の思いだけでは成り立たないのを知っているからだ。
今まで雇用先の人間としてしか見たことのなかった相手に、突然告白されたからそうですかと気持ちの切り替えなんてできない。
「オレは、 こんな気持ちのままじゃ、店長に迷惑かけちゃうから……」
「だから、吹っ切れる手助けもするって言ったでしょ? ちょっと一泡吹かせるとかやり返してすっきりしたら?」
「……すっきり……ですか」
すっきり終わったとは言えない今回の恋愛は、オレの中ではもう関わらないのが一番だろってくらい結論は出ていたはずなのに、店長の軽いノリで「な?」って言われると、オレの心はアキヨシほどすっきりと割り切れていないんだって気づく。
「別れた相手が幸せになってたらさぁ、絶対もやっとするから!」
「え……そんな奴じゃ……」
アキヨシなら、きっと元恋人の幸せも祈ることができるんじゃないかな なんて、どっちの味方かわからないようなことを考えてしまう。
でも、と心の薄暗いところが囁いた気がした。
もし、新しい彼氏と共に目の前に現れたら……アキヨシはどうするだろうって、ほの暗い気持ちが問いかけてくる。
少しはオレの方を見てくれるんじゃないかって浅ましい気持ちがわずかと、オレは幸せにやっているんだってのを見せつけたいって言う気持ちが少しと、もしかしたら妬いてくれるんじゃないかって下心が大部分……いや、結局はただアキヨシにもう一度だけでも会いたいって思いから、店長の言葉にこくりと頭を下げてしまった。
新築のマンションはラグジュアリーさを売りにして販売されていたのをテレビか何かで見たような気がする。
雨の降る薄暗い陽光の中でも真っ白なそれはゆるぎなくそびえ立っていて、思わず立ち入るのを戸惑わせるほどだ。
いつもよりは幾分も堅苦しい服は隣に立つ店長……じゃない、恭司が選んでくれたものだ。
何気に合わせて来たなって思わせる服装で隣に立って、にこやかに微笑んでいる。
手には恭司が朝から焼いていたロールケーキと、少し大きめのカバン。
「てんちょ……じゃなかった。恭司? それ何?」
「お土産と、お祝い用にちょっとしたカクテルを作れるようにってことで、その道具」
「ええ⁉」
オレがすっきりするのを手伝うとかなんとか言いながらも、恭司の方がノリノリに思える。
「……な、何する気なんです? じゃなかった、えっと……何する気?」
そろりと尋ねるオレに、恭司はいたずらっ子っぽく笑う。
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