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有罪 67

「人間、酒を飲むといろんなところが緩むからねぇ」  ふふふ といつもより髪を編み込んだりしておしゃれに決めた恭司は肩をすくめて笑う。 「一泡吹かせるには一番なんだよ」    ご機嫌な足取りのままエントランスに入り、常駐の警備員に会釈をしながら姉の部屋番号を探すが……人気だったと言うだけあって、部屋はほぼ埋まり切っていて姉の名前を探すものの指は彷徨うばかりだ。 「ケイ、ちゃんと『西宮』で調べてる?」 「あっ」  番号は合っているのに名前がないなぁって思いながら行き過ぎたところで、恭司がそう助け舟を出してくれた。  考えれば当然のこと……なのに、どうしてだか考えつかなかったのは緊張しているからかもしれない。  こんな調子で、恭司と仲の良さを見せつけてアキヨシにむっとした思いを抱かせることができるんだろうか?  酷く、間違いを犯している気分で…… 「はい! ……ぇ⁉ 圭吾⁉」  てっきりルンルンとした声で扉を開けると言われるだろうと思っていただけに、姉の声は意外だった。  あれだけ連絡を取って了承もしたと言うのに、やっぱり家から追い出された弟が遊びに来るのはよくないんだろうか……と、肩を落としかけた瞬間、   「   ────入ってもらったら?」      低い声が姉の背後から聞こえた。  どっと冷や汗が出て、声を聞くだけでもう駄目なんだって目が回りそうになって思う。  オレはやっぱりアキヨシに裏切られたことにすごくショックを受けているし、例え姉だとしてもオレ以外の人間と幸せそうにしてて欲しくないし、何よりもなかったことにされたくなかった。 「ありがとうございます!」  さっとオレの横から恭司が声を上げて、見えもしないのにアキヨシを睨みつけたかのような気配がする。  オレが付き合っていた相手が姉の結婚相手だったと知った瞬間は酷く驚いた顔をしていたけれど、その結末を話すと怒りを含ませた表情をしていた。  正直、オレのことで恭司がそこまで怒りを感じるのが不思議で、置いてきぼりを食らったような気分が少しあった。 「で、よかったよな?」  さっと右手を引かれて、その時になって初めて立ちすくんで動けない状態だったんだって知る。  アキヨシなんかもう忘れて、新しい相手と幸せになっているんだと言ってやろうと思っていた気持ちはとっくにしぼんでしまってて、オレに残されているのはただ消化しきれない未練の皮を被った消しきれない恋慕だ。  引っ張られた手を反射的に振り払いそうになると、その意図が伝わったのか恭司は一瞬驚いたような顔をした。

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