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有罪 70
「ずっとこうして呼びたかったけど、ケイが幸せになれることを優先するべきだって思ってたから言わなかった。言わなかったら……変な男に引っかかってばかりだった」
「う……」
碌な男と付き合ってこなかった自覚があるだけに、恭司の言葉には呻き声を返すしかできなかった。
「見守るだけじゃ、幸せにできないってわかった」
「いやそれは…………」
自分の人を見る目のなさがダメなんだと、ちらりと恭司を見上げる。
「自分で掴みにいかないと幸せって逃げるもんだと痛感したし」
こつん と頭に頬を寄せられると、控えめなウッド系の香水がわずかに鼻先をくすぐって、なんとなく居心地の悪いような気分になってしまう。
「……でも、 」
でも、でも、でも と同じ言葉を繰り返して、どうしてもオレは立ちすくんでしまう。
遊びなら遊びで、せめて一言「終わり」と言ってくれたら違っただろう。それにあの事故の瞬間自分を庇わなかったならば……
アキヨシの行動を思い返してはそんな様子はおくびにも出していなかったじゃないかと自問自答が繰り返されて、頭の中はずっと「でも」「だって」「もしかして」が渦巻いている。
「でも、人の幸せを壊すのは、したくない」
こみ上げるものを堪えるためにぎゅっと唇を噛んで恭司を睨み上げると、困ったような顔とぶつかった。
何とかオレを説得しようとしたけれど……と言う様子に、子犬のような雰囲気を読み取ってしまって小さな笑いが零れた。
「ここまでしてもらったのに、すみません。ここからはオレ一人で行って、用事ができたからって帰ります。店長は先に 」
「店長じゃなくて?」
ぎゅっと抱きしめる力は変わらず、腕の中からは抜け出させてはもらえなさそうだ。
「……恭司は、先に 」
そう言いかけた時、エレベーターの着く音が響いて、ここがどこだったかを思い出してはっと飛びのいた。
わずかに開いた距離を惜しむような顔をして、恭司はさっとオレの手を握って歩き出す。
「ちょうど来てよかったね」
「……っ」
「?」
引かれた手を不自然に引っ張ってしまったせいか、怪訝そうに恭司が振り返ってオレを見る。
その向こうには開く扉からアキヨシの驚いた顔が覗いて……
繋いだ手の反応で何かを悟ったのか、恭司はオレの視線を伝うようにしてエレベーターの方へと向き直る。
「こんにちは、西宮さんでしょうか?」
はきはきと尋ねる恭司とは違って、オレは指先から血の気が引いていく感覚に襲われる。
「はい…………圭吾くん、いらっしゃい」
アキヨシの目はオレと恭司を見比べ、最後に繋いだ手に落ち着いてから気まずそうに逸らされてしまう。
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