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有罪 72

 もっとも、その息苦しさは広さばかりが問題と言うわけではないだろう。  元彼と今彼に挟まれて、オレはどこから出たのかわからない汗にぐっしょりとなっていた。  距離が急に近づいたせいか、エレベーターの中はどこか気まずくて会話らしい会話もない。 「  最上階なんですね」 「ああ、運よく空いていてね」  そんなとりとめのない会話をするのを見守りつつ、久しぶりに近くで感じるアキヨシの熱にもじ と身を縮めてうつむいた。  触れているわけでもない、こちらに向けて話しかけているのでもない、なのに耳はずっとアキヨシの声を拾ってぴくぴく動いているし、肌はほんのわずかな気配を感じようとしているかのようにざわついている。 「さぁ、どうぞ」  エレベーターを降りて先を行くアキヨシは、オレとの間にしこりがあるようには思わせないほど自然体だ。  オレはやっぱり、アキヨシの前に現れるんじゃなかったって後悔しながら、絞首台に連れていかれる心持で後をしずしずと歩いていく。 「あ! 圭吾! ごめんなさい! 私すっかり別の日だと思い込んじゃってて……」 「美容室なんだって?」 「そうなの!」  扉を開けて一番、挨拶もそこそこに飛び出してきた姉にそう言われて、体中に入っていた力が抜けた。 「美容室の予約をずらせばいいんだけど、明後日に秋良さんの仕事のご挨拶に同行するから……」  癖もなく、綺麗に伸ばされた髪なのだからそのままではダメなのか? と思いもしたけれど、女性の身支度の大変さにオレが口出しするのは違うだろうと、うんうんと頷いて返す。 「三時間……四時間くらい、席を外してもいいかしら?」 「それくらいなら俺一人でもてなせるよ」  笑いを含みながらアキヨシに言われて、散々困った顔をしていた姉は嬉し気に笑って返した。 「じゃあ……お願いしてもいいかしら?」 「もちろん」  にこにこと二人で穏やかにやりとりするのを見ていると、二人がどれだけ仲睦まじく、お互いを尊重し合いながら暮らしているのかが垣間見えたような気になる。  きっとアキヨシはオレに対していた時のように、姉に対しても誠心誠意の態度で接しているんだろう。 「お義姉さん、本日はお招きありがとうございました。ずうずうしく僕までついてきちゃって……」 「谷さん……ですよね」  姉にはお付き合いしている人と行くと言ってあったが、恭司を見ると少し人見知りが出てしまったようだった。   「谷恭司と言います。圭吾くんのバイト先の責任者をしています」 「あ、そうなんですね……姉の佑衣子です。圭吾がいつもお世話になっております」 「いえ、こちらこそ、圭吾くんとお付き合いもさせていただいていて、お世話になっているのはこちらの方です」    

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