74 / 86

有罪 73

「これ、谷さんからいただいたんだ」  会話に割り込むように、さっと二人の間に割り込むように紙袋を差し出すと、アキヨシは早口でそれを告げて部屋の中へと入って行く。 「今朝、圭吾くんと焼きました。皆で食べてもらえたらと思いまして」 「わぁ! ありがとうございます! 圭吾も手伝ったの?」 「……卵割るのと、バニラエッセンス入れるの、した」  ほとんどを恭司が作っていたし、パティシエでも何でもない男が作るにしては凝ったものを作っていたために、オレが手伝えたことなんてそれくらいだった。 「あと粉糖をかけてくれました」  褒める場所を増やそうとして恭司は言ってくれたのかもしれなかったが、結局それはオレがしたのは本当にちょっとしたお手伝いだけだったと教えてしまっていた。 「お昼はピザでも頼むから」 「でも  」 「時間があるだろう?」  そう言って送り出そうとするアキヨシに、姉は申し訳なさそうな顔をしたままこくりと頷いて美容室へと出かけて行った。 「奥さん思いですね。すごく仲がいい」 「そうだね、見合い結婚だったけれど、いい関係を築けていると思うよ」  ソファーに腰を下ろして二人の会話を聞いてはいるけれど……何をどう話していいのかわからないくらい、嫌な汗は出ているし頭の中は真っ白だしでオレは黙りこくって膝に置いた手を見つめた。  左手の薄い指輪の痕はまだ消え切っていなくて、わずかな未練を表すかのようだ。   「お義兄さんは僕達の関係に何か思うところはないんですか?」  さっと耳に飛び込んできた声はナイフのようだ。  深く胸に刺さって息が止まるような衝撃が襲ってきて、……どうしてそんなことを⁉ と聞こうとする前にアキヨシが答えていた。 「義弟のことだから、受け入れたいと思うよ。嫌悪とかそう言った言葉で表現するものに関しては感じないから安心してもらえたらいい」 「……でも、結婚前にケイのことを知って、何か思うことがあったんじゃないんですか?」  恭司は試すような声音で尋ねかける。 「思うも何も……いや、何か思っていたのかもしれないけれど、今はそうじゃないよ」  奇妙な言い回しだな と思ったものの、二人の会話に嘴を突っ込む勇気はない。 「思っていたかもしれないって、随分と曖昧な言い方ですね。お忙しくされていてそんなことは重要ではありませんでした?」  恭司の言葉にひっと飛び上がりそうになった。  失礼な物言いばかりしているのだから、どこかで止めなくてはいけないのに…… 「重要なことだとは思うけれど、ただ私にそのことを知る手立てがないのでなんと言ったらいいのかは……」  

ともだちにシェアしよう!