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有罪 74
また……気になる言い方だ。
「見えるかな?」
そう言うとアキヨシは右のこめかみから眉側にかけて走る傷跡をこちらに向けた。
髪でなんとか隠れる位置だったが、オレはこの傷を知らなかった。
二人であれだけ睦み合っていたけれど、こんな大きな傷があればキスした時に気づかないはずがない。
「……登山中に滑落したそうなんだ。幸い酷い怪我じゃなかったんだけど、どうも頭を打ったらしくて……」
「記憶がないと?」
恭司の声は低く冷たい。
何を言い出したかと思えば、そんな言い訳を始めやがって……とでも言いたげだ。
「そう、春の前くらいからの記憶がごっそりね」
「……春の、前」
「病院で気づいたら結婚目前の婚約者がいたのが一番のびっくりだったよ。そんな僕を佑衣子さんは見捨てなかったんです。いろいろな話をしていたそうなので、その中に圭吾くんの話もしているはずで……だからかな、忌避感はないんだ。多様性と言いつつもまだまだ警戒する人はいるから、気になってしまうのは理解できることだし」
そう言うとアキヨシは穏やかに笑った。
ピザの箱が四つ。
大人の男三人だからと注文していたが、さすがに男でもLサイズ四枚は食べきれるわけない。
アキヨシはちょっと失敗したかと顔をしかめて、テーブルに広げたピザを見下ろして眉尻を下げている。
「……たっぷりありますね」
「多すぎたね……食べられる分だけ食べて、持って帰ってもらってもいいし……」
そう言いながらしょんぼりとしているアキヨシは、結婚式の時の表情が嘘のように穏やかだ。
「お酒があれば食も進むでしょう? 道具と材料を持ってきたんです、簡単なカクテルをお作りいたしますよ」
恭司はさっと切り替えて、荷物を持ってキッチンに入ってもいいかと尋ねてから向こうへと消えていく。
「……たくさん、ですね」
二人きりになってしまうと会話がなくて、同じことをぽつぽつと言ってしまう。
面倒だろうに、アキヨシはその言葉に一つ一つ返事をくれて……
けれど、話したいことはこんなことじゃないんだとぎゅっと拳を握った。
「……記憶、ないんですか?」
「ああ」
「…………全然?」
「まったく と、言うわけじゃない」
そう言ってオレを見下ろしてくる目には、昏い影が宿っている。
「何なら、覚えてるんです?」
「体が覚えていることとか、ものの名前とか……それから、春以前の記憶はあるんだ」
その季節は、ちょうどオレと出会った頃のことで……アキヨシはオレと関わった期間を綺麗に忘れてしまっていると言うことだ。
「 」
はっ と鼻で笑いそうになったのを寸でで堪えた。
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