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有罪 77

「! ごめ  」 「いや、それより拭くものを  」  恭司がさっとアキヨシを見て、やはり怪訝そうな顔を一瞬だけした。 「あの……すみません、汚してしまって」 「あ、ああ、拭けばなんとかなりますよ、今タオル取ってきます。圭吾くんはこっちへ、着替えを出すよ」  洗面所に案内されて、少し待つように言われ……見ようと思ってないのにきょろりと辺りを見回してしまう。  とは言え、そこは新築だし引っ越したばかりだしで綺麗に整えられているだけの空間だ。歯ブラシが並んでいたら……とそろりと見た洗面台も、鏡の裏に片づけられているのか手洗い用の洗剤以外何もない。  清潔なその空間は姉とアキヨシが暮らしていると実感するものは何もなかった。 「……」  窓辺に飾られた華やかで可愛らしい花を挿した小瓶が、ぽつりと二人の生活を物語る。  ここは二人のための空間で、汚れた服で立ちすくんでいる自分がただの異物なんだとわかってしまう。  二人はここで新しい生活を始めているのに、自分は古い記憶にしがみついた汚れみたいなものなんじゃないかって。 「────っ」  冷たいものがかかったからか、それとも違うことが原因なのか……頭が冷えていくにしたがって、体が震えて立っていられなくなった。  もそもそとひやりとするシャツを脱ぎ、洗面台でジュースのかかったところに水を流す。  鏡に映るのは、情けない青い顔をした自分だ。  細身と言えば聞こえはいいけれど、ただ食べれていないから細いと言うだけだったし、野暮ったいからと明るく染めた髪はまだ戻してなくて真っ黒なまま。  姉のように体のラインを気にして生活しているわけでもないし、姉のように自然な美しい黒髪と言うわけでもない。  何一つ姉には適わないし、秀でてもいない自分が鏡の向こうから自分を見ている。    記憶がないとわかったからどうした?  だからと言って結婚がなくなるわけじゃない。  あの時、自分から距離をとらなければ?  今、アキヨシといるのは自分のはずだ。  すべてが少しずつずれて、誤解して、もういいって放り出してそれで全部が終わってしまったんだと思っていた。  指輪を捨てると言ったのは自分自身だ。  アキヨシが返してくれた指輪を「捨てる」と宣言して……自分自身で、アキヨシを見限ったはずなのに!  アキヨシの手を離してしまったことをこんなにも後悔するなんて!  水の冷たさを感じないくらいに血の気が引いていくのを感じる。結局、この状況はオレが招いたことなんだろうと思うと、怒りや嘆きのやりどころを見失った気分だった。

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