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有罪 84

『縋れるんじゃないか』  オレの思考は一瞬それを考えた。  両親に見捨てられ、姉にはもう頼れず、恋人とは縁の切れてしまったオレにはもう何もなくて……たった独りで、もう……顔を上げているのも億劫な気分だった。  けれど、自分にもたれてもいいと言われた言葉がわんわんと頭の中に響き続けていて、それがオレを離さない。  どれだけそれが卑怯なことだとわかっていても、溺れて沈んでいくオレには掴めるものが必要だった。 「ぁ……」  驚いた顔で振り返った恭司は、オレを見下ろして困ったような感情を入り交ぜた複雑な表情だ。  曖昧な態度を取り続けていた相手に急に手を引かれたんだろうから、恭司の反応は当然だと思う。  良心が、痛まないわけじゃない。  アキヨシと出会った時のように、予感があって別れたわけでもなければ見も知らない相手でもない、よく知っている自分に好意を抱いてくれている相手だ。  そんな人を相手に、オレは……   「……その」  酷いことをしている。  わかっている。  とても酷いことだ。  けれど、 「い、行かないで  」  絞り出した言葉の端々は震えてしまっていて、声も小さくて聞き取れなかったんじゃないかと思ったほどだった。  現に恭司からの返事は何もなくて、ただ手を繋いでいるだけの時間が過ぎて……   「  あ、えと、……じゃあ、もう少しいるよ」  しどろもどろにやっと答えると恭司はさっきみたいにオレの隣に腰を下ろす。  触れてはいないのに柔らかに温もりを感じてほっとしてしまうのは、オレがそれだけ人でなしだからだ。  でも恭司ならオレを面倒くさがって切り捨てるなんてことはしないだろうって、打算を考えてしまったから。 「恭司、ありがとう」 「? ああ、今日のこと?」 「今日だけじゃなくて、今までも」  オレの言葉に恭司はさっと顔色を変えて狼狽え始める。  オレに振られるのかもしれないと思っただけでこうやって焦り始める姿が、可愛いと思えたから大丈夫だと思う。 「だから、これからも、ありがとうって言いたい」  尊敬している人だったし、傍に居て不快なことなんてない人だし、誠実な人だって知ってるし……それに加えて可愛いんだから、好意はもうある。  それが恋人としての好意かと問われれば言葉に詰まるかもしれないけれど、嫌いになる要素がないんだから好きになれるはずだ。  だから、オレはそれを信じて隣に座る恭司に寄り掛かった。  それだけで跳ねる脈拍に背中を押されながら、声を出す前に一度だけ唇を舐めて湿らせる。  酷い罪を犯した気分で、オレは恭司の手を取って付き合いたい と決心を告げた。  

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