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第14話 花畑
🌸
晶利の家の近く。森の一角が花畑になっているということで、三人はそこへ訪れていた。
詩蓮は白目を剥く。
「なぜ?」
なぜ花畑に?
少し離れた位置でせっせと花冠を作っている晶利。濡れるのが嫌なのかわざわざ持ってきたシートを広げ、その上に座っている。
妖精は森の中が嬉しいのか、花畑に潜ったり跳びはねたりして遊んでいる。そのたびに昨日の豪雨で付着した水滴が跳ね、神秘的な光景を生む。
「おい。晶利」
「どうした。花冠の作り方を知らないか?」
「なんだこれはなんの時間だ? 意図を話せ」
それともこれはこの男の趣味なのだろうか。随分な少女趣味だ。似合わないぞ。
どうだすごいだろうと、晶利は桃色と橙色の二色で作った花冠を自慢げに見せてくる。
「お前が魔法を使えなくなっている原因だ」
「……ッ。それとこれが何の関係が?」
会話が進まない。苛立ちからぶちっと花を引き抜く。
「黒槌も心配していたぞ。お前、俺の助言をすっかり忘れているだろう?」
「……」
「植物は怖くないぞ? お前は植物と喧嘩している状態に近い。絆を深めろ」
本格的な助言をしているのに、座ったまま詩蓮は晶利に背を向けた。
「詩蓮?」
「嘘つき」
「!」
肩越しに振り返り、ジトッとした目も向けてくる。
「魔法使いじゃないか。しかも英雄級の。なにがただの人間だ」
うっと言葉に詰まる。
「それは……すまない。黒槌があんな流れるようにバラすとは……。正体を隠すくせがついていてな。悪かった」
目を逸らしていじいじと花冠を指で引っ掻く。英雄とは思えない姿だったが素直に謝られたので彼のシートにお邪魔する。
晶利は身体をずらし、スペースを空けてくれた。
「勘違いするな。許したわけじゃないぞ。……ただ、まあ。魔法使いの助言なら、き、聞いてやらんでもない」
「詩蓮……。そうか」
ぺたぺたと詩蓮が腕を触ってくる。
「どうした?」
「不思議だ。どうしてお前の魔力は感じないんだ?」
「……感じるさ」
「? 感じないぞ?」
二色の花冠を金の頭に乗せる。
「お前が未熟だからだ」
妖精は花の影に隠れ、晶利は不格好なファイティングポーズを取って身構える。
「……?」
『……?』
絶対爆発すると思ったのに、ふたりの予想に反して彼は静かだった。
ただ照れたように頬を掻く。
「ふん……」
妖精が詩蓮の額に手を当てる。
『どうしたお前! 熱があるのか?』
「ない。……晶利が言うなら、そうなんだろう」
『お前……同族(魔法使い)相手には素直なんだな』
「紗無は知っていたのか? こいつの正体」
妖精は首を振る。
『知らね。つーかどうでもいい。こいつはオレのお菓子製造機、だからな!』
えっへんと胸を張る妖精の後ろで、晶利はため息をついていた。
「というか、魔法を使っているところを見たわけではないのに、よく俺の話を信じたな」
「魔力は感じないけど、なんか……晶利になにか違和感を覚えたからな。お前ではなく私の直感を信じただけだ」
揺るぎない自信を持っているというのはすごいな。自信家も馬鹿にできない。晶利は妙に感心した。
「それに黒槌様の言葉だし。信じるに値する」
思わず少年の両肩に手を置く。
「どうして数日暮らした俺より、あいつの信頼度の方が天井ぶち抜いているんだ⁉」
いつもそうだ。あいつの言葉はみなが信じる。
……正直者だからな。知ってるさ。
落ち込む茶色頭を、仕方なさそうに妖精が撫でている。
詩蓮は慰めることもなく自分より長い髪をひとまとめにすると、三つに分けて編んでいく。
「こら。人の髪で遊んでいないで、植物たちと向き合え」
「私に使われて当然の存在と、どうやって向き合えというんだ」
「その考えを改めろ。植物魔法が便利と言うことは、それだけ人間は植物に支えられていると言うことだ」
真面目な話をしているのに、詩蓮が編み込んだ髪に妖精が花を差し込んでいく。
『うひょー。おもしれー。お前茶色一色だから、カラフルにしてやるよ』
「しかし、ツンツンした髪だな」
花の茎で髪の最後をきゅっと結ぶ。
「……~~ッ」
がっくりと項垂れる。誰かに何かを教えたことのない自分では、教師まがいのこともできないか。きゃっきゃ遊ぶ子どもたちに、晶利は渋面を作った。
「……」
二分もするとキレイに飾り付けされてしまった。愉快な頭になってしまったものだ。
取ろうとしたらブーイングが起きたのでこのまま置いておくしかない。
「詩蓮。今のままでいいのか? 魔法が使えないままで」
「……良いわけないだろう。でも、植物共と向き合うなど、想像も出来ん」
可愛く頬を膨らませる。
晶利は少し考え、結果……煽ってみることにした。
「ふうん? 不老不死に相応しい天才だ何だと言っていた割には、この程度か」
「んなっ! 出来るに決まっているだろう! ばば、ば、馬鹿にするなっ。この私によくも、いい度胸だ茶髪! 今日中に打ち解けてやる」
花冠を乗せたままどかどか花畑の奥に行ってしまう。効果てきめんだった。散った花が風に舞う。
その一枚を両手で掴み、妖精はうまそうに食べだす。
『……チョロすぎないか? あいつ』
「……案外、植物たちはああいう手合いを好むのかもな」
ちらっと花に目をやるも、晶利では植物の声は聞こえなかった。
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