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第33話 目標 一軒家
その後も順調に依頼をこなし、昇級間近となりつつあった。
「鮮血の巨大蝙蝠」――素早く飛び回りピンチになると仲間を呼ぶ魔物。永遠鈍花で眠らせて地に落ちたところを、花が捕食。蝙蝠は血を大量に吸った後だったのか、花が真っ赤に変色した。
次の日。「鋼鉄亀」――人を家ごと食べてしまう、硬い甲羅で覆われた魔物。鈍花は腹いっぱいで使用できないため、亀が空き家を食べているところに忍び寄り、背後から人喰い草の消化液をぶっかけると骨ごと消滅。
次の日。「暗闇の暗殺者」――音もなく襲い来る梟の魔物。休憩のため枝にとまるとその枝が絡みつき、絞め殺される。梟は最後まで何が起きたのか理解できなかった。その後、巣にて拉致された子どもを発見。血まみれだったものの命に別状はなく、一週間後には走り回っていた。
次の日。魔物をこれまた難なく片付けたところで日が落ちてしまったため、岩がゴロゴロ転がる川辺でふたりは野営をすることに。
粗末なテントを張り、ご飯の準備をする。
ランタンの火を薪に移し、鉄のフライパン(仲良くなった宿の人がくれた)に卵を二つ落としてベーコンも並べる。じゅうじゅうと煙が立つ。その間に詩蓮が、購入した野菜を乱切りにする。
味付けは目分量で塩をぱっぱっとかけて終了。皿に盛り付け、空いたフライパンに野菜を放り込み、炒める。こちらも塩を振ると完成。皿が足らないので目玉焼きとベーコンの上にそのまま入れる。
晶利は地べたに。詩蓮は椅子にちょうどいい岩に腰掛け、手を合わせると食べ始めた。味付けが塩少量だけの泣きたくなる料理だが、晶利が作ってくれたという付加価値がつくだけでご馳走に思える。
「子どもの後ろで立って見てるだけで色々辛いが、本当に優秀だな、お前は」
「どうだ? 惚れなおしたか――と言いたいが、晶利の魔物の知識も、役に立ってる。図鑑に載っていないことも知っててちょっと怖いくらいだ」
褒めるところをひねり出してくれたんだな。気を遣わせてしまったな。
ほっこりする晶利だが、詩蓮は内心ですごいため息をついた。
(はあ。魔物が弱いせいか一瞬で終わる……)
詩蓮が最低ランクなので仕方ないとはいえ、連日雑魚狩りとは張り合いがない。安全に稼げていいとは思うが、晶利の出番がないのだ。
「まあ私が優秀なのはもう全人類が知っているとして」
「ん?」
「それに加えて、師匠が残した種を使っているからな」
永遠鈍花。
人喰い草。
寄生樹(使用禁止)。
どれも強力な植物なため、下位魔物に上位魔法をぶっ放しているようなオーバーキル感がある。頼もしいのだが強力な分、使用魔力量も多い。武器で倒した方がマシかもしれない。
自分が使っていた種たちは、あの日の村に置いてきてしまった。種たちの気配は感じないので伊雪の魔物に燃やされたのだろう。逃げるのに必死だったとはいえ、胸にぽっかり穴が空いたようだ。
「その三つを使うのが大変なら、森での依頼だけにするか?」
そうだ。晶利がいてくれるのだから悲しむ必要はないと、自分に言い聞かせる。
植物が多いところなら無理に強力なこいつらを使わずとも、周囲の木々に頼めばいい。こっちの方が疲れないし無双できるし絶対に逃がさない。
詩蓮は首を振る。
「いい。依頼を選んでいてはこの生活から抜け出せないぞ。私は別に良いけどな」
「気が長いんだな。そう言ってくれるのなら有難い。もしお前が疲れても後ろには俺がるからな? 無理せず交代するんだぞ? というか、たまには交代してくれ」
くすっとほほ笑む。
「ああ」
他愛もない会話をし、魔物が乱入してくることもなく時間は過ぎていく。
食事を終え、ぼーっと星空を眺めていると晶利が鞄を漁り出した。
「どうした?」
「釣り」
取り出したのは安物の釣竿。ギルドで何か買ってると思えば……。
「魚を食べたくなったのか?」
「いや。この川に珍しい魚がいると聞いてな。売れば報酬の足しになるかと」
川に近づき釣り糸を垂らす。餌はその辺掘ったらこんにちはした糸ミミズだ。
「やったことあるのか?」
「ああ。仲間が教えてくれたんだ。お前と暮らすまでは、釣れた魚を売ってその金で毒草を集めていた。釣りは得意だぞ」
そう言うと、こっち向いて笑ってくれた。その笑顔に見惚れる。
好きな人のことをまた一つ知れた。それだけで世界に価値がある。釣りに興味が湧く。
「へ、へえ……。私もギルドで買おうかな?」
「興味があるなら教えてやる。俺は釣りをしているから。焚き火も見ておく。お前は寝てていいぞ」
詩蓮が素直に言うことを聞かないのはもう理解したので、返事を求めず声をかけるだけにする。
「ああ」
返事はするが晶利の隣から離れない。
「なあ。金が貯まったらどうする? 一度黒槌様のところへ帰るか?」
晶利はわずかだが、嫌そうに目を細めた。
「いや……。俺は出来れば黒槌に会うのは最小限にしたい。お前から見れば仲良さげに見えるが、俺はあいつに合わせる顔がない。だから、もう少し稼ぎたい。一軒家を建てられるほど」
「一軒家って、以前の場所でか?」
「あそこが気に入っているが、巨大樹に占拠されたからな。まあ、人がいなければ森の中でもどこでもいいが、お前の意見も聞かないと」
「え?」
「どうせお前。俺と暮らすんだろう?」
茶色の瞳がまっすぐに見つめてくる。ぱっと目を逸らす。
「と、当然だ」
「ならば最低でも二部屋以上ある家にしないと。紗無は……その辺で寝るだろ。だからもう少し、金稼ぎに付き合ってくれると嬉しい。お前は強いうえに街の人からも好かれやすい。頼りにしているぞ」
ぼっと顔が熱くなった。
左右の指を絡ませる。
「や、やけに褒めるじゃん」
「褒めてない。事実だ」
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🌸一言メモ(読まなくても大丈夫です)🌸
詩蓮はポ〇モンで言うと師匠の手持ちで戦っている状態です。杖と三級(ジムバッジ)があるため言う事は聞いてくれますがよそよそしく、魔力もたくさん必要です。
それと詩蓮は全く知りませんでしたが、師匠は詩蓮のお母様の、年の離れた兄上です。兄上は妹と詩蓮父との結婚に反対していたため、妹との仲は徐々にぎくしゃくしていきました。
ケンカ別れしてしまった。素直におめでとうと言ってやればよかった。
後悔から、詩蓮のことは気にかけていました。
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