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第34話 夢をみる

「同じ家に住む。同棲……つまり結婚したってこと、か」 「戻ってこい。詩蓮」  肩を左右に揺すられる。 「なあ。お前の好みってどんな人? 結婚するならある程度把握しておかないと」  まだ戻ってきていないようだ。 「好み、か」  ため息をつきたくなる。コイバナとかしたことがない。  少し考え、かつての仲間の顔を思い浮かべる。あいつらはどんな奴だったか。今でも覚えている。 「おしとやかな人。力の責任から逃げない人。頼りがいのある人。俺の代わりに人と会話してくれる人。黒槌」 「待て」  どこから突っ込んで行けばいいんだ。  一本ずつ指を折っていく晶利を見上げる。 「おとなしいと頼りがいがあるって、両立するか?」 「「好み」と言うか、「好ましい人間」と受け取ってくれ」 「黒槌って。黒槌様がどうした?」 「ああいう善人が好きって意味だ」  詩蓮は顎に指をかける。 「なるほどな……。つまりすべて当てはまっている私が一番、お前の好みに近いってことか」 「お前のおしとやかな部分を見たことがないんだが?」  半眼になって金髪を見下ろす。 「じゃあ、当分はこの街に根を下ろすってことか? お前大丈夫か? この街、人多いぞ? 急に倒れるなよ?」 「……多少なら耐えることは出来る」  苦笑すると川の真ん中にある岩に飛び移る。 「おい! 落ちるなよ? 夜の川だぞ、泳げるのか?」 「ああ。衣服着用中でも泳げるよう、隊長によく沈められた」 「…………」  明るく言うな。反応に困る。  岩に腰掛けじっとしている晶利の背中を見つめる。ご馳走や金貨を見ているより幸せだ。  夜の風が吹く。毛布を取りに戻り、焚き火に枯れ枝を五本ほど追加しておく。炎は勢いを増す。当分は消えないだろう。  火を見つめる。  沢山会話出来た。頬が緩む。 (この街で、晶利とふたりで暮らす。仕事行って、飯作って、一緒に寝て)  夢のようだ。以前は居候のような「お世話になっている」分際だったので肩身が狭く少々居心地が悪かったが、今は違う。堂々と自分で稼いでいる。対等だ。それどころか大黒柱と言っても過言ではない。 (あいつ押しに弱そうだし。このままいけば本当に……! チャンスがあるかもっ)  アピールを続ければ鈍いあいつと言えど私の魅力に気がつく。こんな素敵な人が側にいるのに気づかなかったなんて。これからもずっと俺の隣にいてくれなーーーんて言われたり……ふっふっふっふっふっ。  美少年にあるまじき笑顔で、焚き火の近くにしゃがんで妄想を繰り広げる。 「……ん」  浮かれまくっていると便所に行きたくなった。ちらりと晶利を振り返る。離れるときは声を掛けるようにしているが、ぱっと言ってすぐ戻ってくればいい。  そろそろ限界が近い。 (やべぇ。漏れる)  焦った詩蓮は岩場の奥へと小走りで消えていく。  この日――詩蓮と晶利が再会することはなかった。

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