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第36話 水を求めて

 連れていかれた先は洞窟だった。天然のものではなく人の手が入った、いわゆる遺跡である。  小さい蜥蜴が走りいたる所が苔むし、蔓が壁を覆っている。  石畳の上を引きずられる。こんなに長時間引きずられては人間の皮膚は大変なことになるが、防具代わりのマントのおかげかかすり傷程度で済んでいる。師が一針一針魔力を込めて塗ってくれた防具。  頭部以外の怪我は最小限で済んでいるが。  ヴヴヴヴヴ…… 「はあ……はあ……。んっ、んく、んん。いや」  太ももをきつく閉じても、石は振動をやめない。そのせいでさらに濡れ続ける。 「も、やめ。んく、ああ……はあ……」 『お散歩は楽しいど』  通路を抜けると何もない空間に出た。詩蓮たちが借りている宿の部屋よりは広いが、倒れた柱や石碑のようなものがあるため狭く感じる。 『ほら。お仲間だど?』  ぐいっと鎖を持ち上げられる。首を絞められる形になった詩蓮は鎖を掴んで何とか気道を確保する。  屍が指さす先。倒れた柱に詩蓮と同じように鎖で繋がれた人間がいた。 「!」 『ぐっぐっぐっ。気に入った毛色の人間を飼ってるんだど。黒や茶髪に飽きてきたところだど。どれもいい色だど?』  性別や年齢もバラバラだが、共通しているのは髪の毛が金色だと言うこと。その中の一人の顔がギルドの掲示板でチラッと見た、行方不明者の似顔絵と一致した。 『お前も今日から俺の犬だど。死んだらその肉体はもらうど』 「ぐっ……」  鎖の先を柱に繋がれる。  すると魔物は部屋の隅にあったバケツを手に取ると、詩蓮にぶっかけた。 「ぶわっ! なんだ」 『犬同士、仲良くするんだど?』  にこにこ笑顔でそう告げると、魔物は部屋を出て行く。  ……嫌な、予感がした。 「なんだこれ」  手の甲に鼻を近づける。甘いにおいがする。砂糖水、か? 分からないので置いておく。 「おい。あなた達は無事か? はあ、怪我は?」  おそらく一般人ばかりだろう。魔物に拉致監禁されて、疲弊していないはずがない。  ざっと数えて六人はいる。これだけの人がいなくなっているのだ。すぐに依頼を受けた上位冒険者が助けに来る。  そう励ますも、みな虚ろな目をしている。  ヴヴヴヴヴヴ…… 「んうっ。厄介だな」  ぴくっと肩が跳ねる。もう見られていても構わない。とにかく石を取り出そうとズボンの中に手を差し込もうとした時だった。 「う……、う……」  隣にいた人がいきなり襲い掛かってきた。 「みずうううううっ」 「うわっ、なんだ!」  押し倒される。突き飛ばそうとしたが他の人も次々に掴みかかってくる。 「はぁー……。はあーっ!」  詩蓮を見る目が、何日も餌を与えられていない獣のようにぎらついていた。異常だ。魔物に囚われ心を壊してしまったか。 「落ち着け! 心をしっかり持て」  声を張り上げるも意味はなく、手足を押さえつけられた。固い石畳の感触が背中に伝わる。 「みずだああああぁ」 「みずう。ミズウウッ!」  同じく鎖を巻きつけられた人々が吸血鬼の如く噛みついてくる。いや、啜っているのだ。詩蓮に滴っている水を。水分を。 「――ああっ」  首筋、胸、腹、指先、太ももに吸いつかれ、熱を蓄えている身体は反応してしまう。 「水だ。水だ」 「うまいっ。うまいいいいっ!」 「この、ああんっ、だめっ! やめ、しっかりしろ! んあっ」  顎を掴まれ、唇に噛みつかれる。 「んんっ?」  乾いた舌が入り込んでくる。口内の水分を根こそぎ奪わんと舐め回される。 「……んっ、んん! んぁ、や、んンッ」  この間も下着に入れられた異物は刺激を与え続けているのだ、大人数名を振り払うなど到底不可能だった。しかも一人が振動石に気づいてしまう。 「振動石か。ちょうどいい……ハァ、ハァ。イかせよう」 「んっ? んんんんんんっ」  何を思ったのか、一人がぐっと振動石をソレに押し付けてきた。より強い刺激に、びくびくと腰が跳ねる。 「んあっ、なにを……んああああっやめてえええ! そこいやああ」  やめろと叫ぶがまたもや口を塞がれ、喘ぐことも封じられる。 「んうっ、んんう! んんう。んっ……!」 「ほらっ。イけ! ハァ、精液を出せ。それを、ハァ……飲ませろ」  膝までズボンごと下着をずり下げられた。濡れたソレが空気に晒され、冷える。 「ンンッ。うんっ、んく……」  彼らがこの遺跡に繋がれてから、水を与えられていないのだと悟る。あの屍が振動石を使ったのはこのためか。助けるべき人々に襲わせて、詩蓮の心を折るために。抵抗の意志を奪うために。  他の者も相当乾いているのか、服をまくり上げると小さな乳首に吸いつく。 「ああん! やだあああっ」 「ハァ、ごめんな……ハァ」 「まだきれいな子で、よかった」  じゅうじゅうと吸われ、顎をのけ反らせる。その程度では快楽からは逃れられない。 「気を、くっ、しっかりもて。助けが、あんっ、くるから……。私が……助けてンッ、みせるから……」  少年の声は彼らには届かない。虫が樹液を舐めるように、身体についた砂糖水を舐め取られる。 「うまい。うまい……ハァ」 「おい。暴れるな」 「俺にも吸わせろよ! 舌出せ」  ぴちゃ、ぴちゃ……。じゅるじゅる。ぴちゃ……、ぴちゃ。左右の胸に舌が這い、きつく吸われる。  それぞれ違う刺激がどんどん詩蓮を追い詰めていく。 「ああ……あああっ。いやあああ、やめてええええ。ああ、ああっ」  遺跡に啜られる音と少年の声だけが虚しく響く。トロトロと蜜を零すソレに、誰かがしゃぶりつく。  涙を浮かべる緑の瞳が見開かれる。 「ヒィッ」  ごく、ごく。 「……ん、おいしい……」 「はあっ、あ? あ、あああっ」  飲まれている。それだけでも耐えがたいのに感想まで述べられ、マグマのような羞恥心が溢れてくる。 「ひいっ、ひいいぅ」  もう頭の中はぐちゃぐちゃで、何も考えられなかった。それでも手足を動かし逃れようとする。 「動くなって。ハァ、このガキ……ハァ。こうしてやる」  苛立ったのか、固くなった右乳首を摘まれる。ぴりっとした痛みのあとに広がる甘い痺れが波紋のように全身に広がる。面白いように少年の身体は跳ねた。 「ンああああああっ。ああん! ああんあああっ。んあっ……くあ、や、やめ、やめええ! しょうりいいぃ……!」 「ハァ、はやく……イけよ。ハァー、ハァーっ」  焦れた男がぬるぬるの振動石をぐいっと穴に押し込む。 「―――ッ⁉」  ドクンと少年の身体が一段と大きく跳ねる。目の前が一瞬、真っ白になった。  見つけたのは赤い宝石のはまった杖のみ。持ち主がどこにも見当たらない。 「詩蓮?」  星明り以外光源の無い夜の闇。  子どもが持つにはでかい杖を肩に担ぎ、適当に歩く。 「詩蓮?」  もう一度呼びかける。先ほどより大きめの声で。返事はない。耳の痛い静寂が広がっている。  どうしたのだろう。急に俺に嫌気がさして、黒槌のところへ帰ったのだろうか? 別に構わないがいやまったく良くないが、せめて置手紙くらい。  ごつっ。  爪先が何かに触れた。 「ん?」  足元を見るも、暗い。上を見れば星空があるが、下を見ても黒一色。  仕方なく手にした杖に魔力を込める。  淡い赤光を放つ魔法石を足元に向けると、岩小人が数匹項垂れていた。近くに真っ二つになった個体がいるので仲間を悼ん……いや、このくらいなら復活できるはずなので、単に仲間が起き上がるのを待っているのだろう。  杖を向けたまま、岩小人の隣にしゃがむ。 「お前たち。金髪の少年を知らないか?」  岩小人はちらちらと晶利を見たが、何も言わない。 「……そうか」  ため息をつくと、首から下げている黒い宝石を握った。 「お前たち。マントを羽織った金髪で緑の瞳をした生意気そうな少年を知らないか?」  分かりやすいよう詳細な外見情報も加えてもう一度訊ねる。  一体どれほど恐ろしいものを見たのか。砂になりそうなほど高速で震えながらも、岩小人は素直に教えてくれた。 「魔物に連れていかれた? ……分かった。礼を言う」  正直に話してくれたので、詩蓮に怪我を負わせたことは不問としよう。だが次はないと告げると、岩小人は割れた仲間を持ってぴゅーっと逃げてった。岩石系とは思えない足の速さだった。  目を閉じ、ここにいない少年に語り掛ける。 「詩蓮。死ぬなよ? ……喪う辛さを知っているのが、お前と黒槌だけだと思うなよ」

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