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第44話 どこか他人事だったのに
「二階くらいなら着地できる。見くびるなと言っただろう?」
「進んで怪我をするかもしれない行動を取るなと言っているんだ。怪我をしたらまた気絶させるぞ」
「……」
「こらこらこらこら! 足を窓枠にかけるな!」
詩蓮を抱き上げるとベッドに放り投げた。勢いをつけすぎたのかポインとバウンドした詩蓮はベッドから落ちた。どすんといい音が響く。
「ベッドから落ちるのは良いのか?」
「すまん……。力が入った」
仰向けになった詩蓮に治癒魔法をかけようとして手で制される。
「そこまでの怪我じゃない。大げさな」
「っ、そうだな」
つい昔の癖で。
「でも頭をぶつけたな」
床にあぐらをかくとちらっちらっと何か言いたげに見てくる。素直に正座した。
「分かった。殴ってくれ」
「何も分かってない。キスするところだろそこは」
顔を近づけてくる。顔が赤いのは夕陽のせいではない。たぶん自分も赤いと思う。
「……長い口づけは嫌なんじゃないのか?」
「誰がそんなこと言ったんだ? 長いとは思うが、なんで長いんだ?」
あっちこっち目を泳がせていた晶利だが、今回は自分に非があるので白状する。
「その……。き、ききっき気持ちが良くて、止まらなくなるんだ……」
顔を覆って蹲ってしまう。床に焦げチョコ色髪がもろについているぞ。そんなに恥ずかしいか? あ、経験ないんだったな。私もだ。
「じゃあもっと頻繁にキスしてくればいいじゃないか?」
「……」
「そうか。お前も気持ちいいと思ってくれていたのか。気持ちが良いなんて、それが聞けただけでも私は嬉しいぞ?」
詩蓮の手が頭を撫でてくる。
ぐうううっ。恥ずかしい……! 十五歳が余裕かましているのにどうして俺はこうなんだ。
(でも)
こんな俺を好きだと言ってくれる。そんな人間はいない、現れることはないんだと。諦めていた。それがどうだ? 目の前の誰もが振り返る美少年が俺のことを、
(……)
俺でいいのか。女性にしろ。もっとまともな奴が――と色々浮かぶが、
(確実にこれ言ったら杖で殴られるな)
それにこんなのは言い訳だ。晶利が自分に自信がないから、詩蓮のことを心配していると言い訳してあれこれいらん考えが湧くのだ。詩蓮を見習え。自分に自信しかないぞ。手本に出来る人が側にいるのだ。まずは真似をしろ。大人だろう、俺は。
「――……」
髪に着いた埃を払いながら上体を起こす。
「な、情けないところを見せたな」
「そんなことで嫌いになったりしない。もっと見せろ」
あああああっ。駄目だ。なんで俺より男らしいんだ。
「……」
顔に似合わず男前な少年の顔を見つめる。心臓が、うるさい。――あれ?
「ど、どうやって、口づけしていたのか……思い出せない……」
恥ずかしいという感情が分厚い壁となって立ちはだかっている。どうやって今までこれを超えていたんだ? 分からん。急に!
どぎまぎと汗を流す晶利に、しょうがねぇなと頭部を掻く。
「顔真っ赤だぞ?」
髪を耳にかけると薄い唇に自分の唇を重ねた。
「―――ッ」
触れるようなキス。すぐに詩蓮は離れたが頭が爆発するかと思った。
「舌を入れたいがやり方が分からんな」
ぼやいていた詩蓮だが、晶利の顔を見てにやっと笑う。
「なんだその表情は? 平然としていたのにずいぶんな差だな」
「へ? え?」
自分は一体どんな顔をしているんだ。ぺたぺた触って確認するが分かるはずもなく。
「ふふん。お前は押しに弱いようだし。落とすのに時間はそうかからないだろうな。楽しみだ」
「し、しれ……」
以降、雨の日は自然と休みの日に――いちゃつく日となった。
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