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第5話 二人目の被検体 R18/小お漏らし
書斎で書き物をしていると、扉をノックする音が聞こえた。
「ご主人様、お茶をお持ちしました」
「入っていいよ」
僕が返事をすると、目の端で静かにドアが開く。すぐにティーセットを持ったアーリスが顔を出した。
今日も見目麗しい。僕が少しの間、お茶を用意しているアーリスに見とれていると、その視線に気づいたのか、彼は屈託なく微笑んで僕を見つめ返した。
「もう2ヶ月かぁ」
「…時が経つのは早いものですね」
失礼いたします、と付け加え、紅茶と茶請けのクッキーが差し出される。甘いものは好きでも嫌いでもないのだが…どちらかといえば、今はいらない。
アーリスは僕を子供だと勘違いしてる節がある。頭を使う時に糖分が必要なのは、人間だけなのに。確かに見た目は人間と大差ないから、錯覚してしまうのも無理はないけど…。背も小さいし、人間で言えば少年に近い見た目だしな。
「お茶だけでいい、甘いものはいらない」
むっつりとクッキーを見つめて言う僕に、珍しくアーリスは食い下がってきた。
「ご主人様、こちらは甘さ控えめのガレットです。これにサワークリームと、細かく切ったミモザを混ぜたペーストを付けて、召し上がってみてください」
「……これ?」
「そうです。気持ち多めに…、このくらいですね。どうぞ」
僕に説明するようにバターナイフを掬い、甘くないクリームの乗ったガレットを、そのまま口元に運んでくる。いい匂いがして、思わずかじりついてしまった。
「……!おいしい…。すごいな、僕の好み通りの味だ。ミモザが好きなの、もう覚えてくれたんだね」
「もちろんです。ご主人様に喜んでいただくことが、わたしの喜びですから。先日来たワタリガラスの商人たちより、多めに買い付けておきました」
模範解答、さすがアーリス。
僕がアーリスにかけた魔法は、本人の性格や資質まで捻じ曲げてしまえるものじゃない。ただ思い通りに操れるようになるだけだ、ほぼ性的な意味で。
つまりアーリスは、僕の言うことならなんでも聞いてくれるものの、魔法がかかったからといって突然有能な使用人になれるわけではない。だから彼の仕事ぶりは、全て彼の資質によるものなのだ。
「でもこれ、自分で食べるのめんどくさいな。手も汚れそうだし」
我ながらとんでもないワガママだと思うが、書き物をしてる時に煩わしさは感じたくない。ここは僕としては、どうしても譲れないラインだった。
「でしたら、ドライナッツとドライフルーツのミックスはいかがですか?ミモザ単体にして、ホットワインもご用意できますが」
ううむ、隙がない。ドライナッツも僕の好物だ。そこへビタミン補給も兼ねた、ドライフルーツを一緒に食わせようという魂胆…もとい、配慮。
甘いものは微妙だが、甘じょっぱいのは大好きだ。ミモザ入りサワークリーム載せガレットしかり。紅茶との相性もさぞ抜群だろう。ホットワインとチーズも捨てがたいが…しかし。
「それもいいけど…口寂しさを紛らわせる方法なら、他にもあるから。大丈夫だよ」
「……。ご主人様、お言葉ですが…煙草はお体に障りますので、どうかお控えを」
もうすでに一本咥えてる僕に、アーリスは渋い顔をした。
「はぁ……何度も言ってるじゃん。僕は一日に1万本吸っても死なないんだよ。毒が効かないからね。それにもう君の体にだって、毒になるものじゃない」
「ですが時々、ひどい咳をしておいでですよ…」
「肺にヤニが溜まるんだよ、時々吐き出さないと詰まるだけ。わかったらさっさと、マッチを寄越してくれない?」
別に火をつけろなんて、無精な頼み事をしてるわけじゃない。それでも、アーリスは机から取り上げて握りしめたマッチを、離してくれなかった。
「アーリス、いい子だから」
「だ…だめです。お断りします」
その返答に、僕は首を傾げた。なんでも言うことを聞くのではないのか?明確な命令でないから作用しないのだろうか。
「マッチを僕に返せ、アーリス。命令だ」
「……っ…い、いけま…せん…っ」
ふるふると震えつつ、アーリスはぎこちなく僕にマッチを差し出した。
はっきりした命令じゃないと効かないのは面白い。そんなに嫌ということか。犬の真似は嬉しそうにするのに。
マッチを受け取ったものの、別のことに興味が移った僕は、煙草と一緒にそれを机に置いた。
「気が変わった。アーリス、これを吸ってみて」
「は…、はい。ご主人様」
困惑しつつもゆっくり手を伸ばし、煙草を咥えて、僕の前で火をつけてみせるアーリス。
「ぅ、げほっ……」
初めて吸ったのだろう、煙を吸い込んですぐに、むせてしまった。涙目でむせながら煙草を咥えているアーリスは、なんだか少し官能的だ。
「もういいよ、ほら」
けほけほ言いながら健気に命令を実行する姿に、不覚にも少し欲情しそうになったので、僕は灰皿を差し出してやった。アーリスが灰皿に手を伸ばしたところを見計らい、その手をつかむ。
「あの、ご主人様…?」
僕は煙草をアーリスの白い手から奪い、彼の手の甲に火種を押し付けた。
「っ…ぅぅう!!!」
痛そうに体を丸め、空いてる手で焼かれる手の根本を握りしめて、懸命に耐えるアーリス。そう、本来ならこの術式は、ここまでされても僕を押しのけることすらできないのだ。
しっかりと押し付けた後で煙草を離すと、ぷすぷすと煙を立てながら、焼け焦げた皮膚が見えた。
そこへ、ふ、と息を吹きかける。
灰が舞い、瞬く間に火傷の跡は消えて、元通りの綺麗な手に戻った。
「君は人間の尺度で、僕を見すぎてるよ」
僕の言わんとしていることがわかったのか、アーリスは「考えが及ばず、申し訳ありません」とすぐに謝った。
「まぁ今日はでも、アーリスのわがままを聞いてあげる。近くにおいで」
命令するやいなや、音も立てずに歩み寄り、左隣に立つアーリス。その手を取って、小指を口に咥えた。
「っ、ご主人様…!」
「煙草を吸ってほしくないんでしょ?じゃあ何かを咥えてないと…自分のをくわえてるわけにもいかないしね」
「…っ……ぁ、…し、しかしこのままでは…その、お、お邪魔に…っ」
「もう勃起しちゃったんだ?相変わらず感じやすいね。声を出すなとは言わないけど、控えめに頼むよ」
命令のラインを曖昧にして、僕は物書きに戻った。
ついでにメモも残しておこう、「明確に嫌な行為を命じるには、明確な強制力を持った言葉で命じねばならない」…よし。
「うっ…、く……っ…」
僕が少し動いて指に歯が当たったので、アーリスはとっさに息を詰めた。
その後も角度が変わる度、艶っぽい吐息を漏らす。煙草とは勝手が違うので、たまに舌を当てたり、強めに噛んだりもしてしまう。
無意識なのだが、それが余計にアーリスを倒錯した快楽に陥れるようだ。
「………うーん、」
柔らかく頼りない細指に、気を使いすぎた。さすがに顎が疲れてきた。一度アーリスの手を取り、口から小指を出す。
「…ご満足、いただけましたか?」
「アーリス、手」
終わりかと安堵した風に、手を引っ込めようとしたアーリスの手を引っ張り、今度は薬指を口に咥える。書き物をする右手は止めずに。
「っ!……は、ぁ…ごしゅじ、さま、っ…ふぐ、」
今度は根本までしっかり奥歯で噛みつき、もごもごと口の中で転がした。さっきより質量がある分、収まりが良い。アーリスの指は、紅茶と焼き菓子の香りが染み込んでいた。いいにおいだ。
「ぁうっ……っ、ん、…く、ぅぅ……っ…」
戯れに前歯で指の腹を噛んだり、舌で舐める。これはあれだ、噛み煙草の要領に近い。
僕はアーリスの吐息をBGMに、しっかりと書き物に集中を始めた。たまに周りの資料を引っ張り、計算や推論を書き連ねていく。これはこれで悪くない。
「…ご、ご主人様……ぃ…ぃた、痛い…です、……っ」
つい没頭するあまり、思い切り指を噛み締めていたようだ。口から出してやると、アーリスの右手薬指にはしっかりと僕の歯型がついていた。牙もあるしな、そりゃ痛いだろう。少しだけ血も滲んでる。
「集中しすぎちゃってたみたいだ、悪かったね」
「ひっう、…っひゃ、そ、そんなことは…ぁ、お役に立てて、光栄…ですっ…」
ぺろりと舐めてやると、アーリスが可愛い声を出す。手を離してやると、僕に咥えられた小指と薬指に、大事そうに左手を添えて呼吸を整えていた。だがふと視線を下にやれば、まだ膨らんだままの股間が嫌でも目に入ってくる。
やはりだめだな。噛み煙草代わりにするには、これは少し愛らしすぎる。
すっかり集中力をそがれ、なんとはなしに窓を見ると、コツコツとガラスを叩く音がした。
「…ん、なんだろ?」
「ご主人様、わたしが」
窓を確認しようとするアーリスを制し、少し間を置くと、再びコツコツ…と遠慮がちに音が鳴る。
「ああ、君か」
その正体に気づいた僕は、座ったまま軽く窓へ息を吹きかけた。鍵が開いて、薄く窓が開くと、小鳥が部屋に入ってくる。ただし木製の。
小鳥の脚に書いてある番号をルーペで確認し、術を解いた。小鳥は元の木札へ戻る。
「あの店主、存外に律儀だったね」
窓を閉めているアーリスの背中へ、声をかける。
「お渡しになっていた木札でしたか」
戻ってきたアーリスは納得した様子で、僕の手にあるものをしげしげと見つめていた。
そう、これはアーリスを買った奴隷商に手渡していた伝書板だ。新しい奴隷が入ったとの知らせがやっと来た。
「身支度しよう、出かけるよアーリス」
「かしこまりました。それでは近くの宿場に、馬車を手配してまいります」
「いや、今日は空を行こう。善は急げだ」
やっとアーリス以外にもこの魔法を試せる。僕はワクワクしてくる気持ちを抑えきれず、上機嫌にローブを手に取った。
魔術は、弛まぬ反証と積み重なった実験の成果だけが全てなのだから。
最寄りの宿場でアーリスに帰りの馬車の依頼を頼み、僕は大急ぎで件の古物商へ入った。
今日は急いでいたので、街の近くまでグリフォンに乗せてもらった。初めての空旅で、最高速に乗っていたグリフォンの背中というのは、アーリスにとってそこそこの恐怖体験だったようだ。振り落とされないよう、始終僕にぎゅっと抱きついていたのが、普段冷静な彼らしくなくて面白かった。
そんなグリフォンとアーリスのがんばりのおかげで、日が暮れた直後には奴隷商に到着でき、ギリギリ店主も起きていた。
さっそく今回の奴隷の素性を聞いていたのだが、思わず呆気にとられてしまった。
なんと、またしても『あの仕入れ先』らしいのだ。今回入荷したのは『元庭師』で、また『窃盗罪』。しかも売り手は同じ人物…つまり、アーリスの『元旦那様』だ。
これは…アーリスが庇ったという『同僚』の男ではないだろうか。
(被害妄想が拡大してそうだな…『元旦那様』は。やっぱりアーリスを殺しとこうとか、なったりしなきゃいいけど)
少し不安になったが、今のところアーリスのことも探していないようだし…すぐに隠れてしまえば大丈夫だろう。成人男性の奴隷は希少価値が高いのだ。
見た目にも変わった所はなかったので、今回はすぐにいつも通りの金と木札を、店主に渡した。
「ま、まだ必要なんですかい…?」
「多ければ多いほどよいのだ」
店主もさすがに面食らったようで、というか多分、怪しんでるようで、訝しげに僕の仮面をじろじろと見てきた。
「君を信用して言うが、さる高貴なお方がね。なんというかこう…ちょっと、特殊な趣味をお持ちなんだ。わかるだろう」
僕が首を切るジェスチャーを交えて見せると、やっと店主も納得したようだった。多ければ多いほどいいのは、すぐに奴隷が死ぬから、という暗喩だ。嘘は言ってない、実際本当に致死率は高い。10%くらいはある、多分。
「ああー…ええ、ええ、わかりましたとも。こんな汚え店をご贔屓にしてくだすって、こちらとしてもありがたい限りでさ」
「手間をかけるが、頼むぞ」
「滅相もねえ」
魔術師が付き従う『高貴な人物』など、王族かその親戚筋か、竜族だけだ。それほど位の高い人物ともなれば、金払いの良さやフットワークの軽さも頷けるだろう。
支払いは済んだので、僕はさっさと奴隷にローブを被せ、連れ立って外に出た。
「……っ!」
連れてこられた奴隷を見て、アーリスはうっかり声をあげそうになっていた。
やはり顔見知りか。仮面とローブでしっかり変装させてはいるが、まだ声は出さない方が良いだろう。僕は奴隷の後ろからゆるく首を振って、アーリスに「喋るな」と合図を送り、三人で馬車に乗り込んだ。
新しい奴隷を連れて、夜の森へ入る。
夜目が効く僕とは違い、人には難しい悪路のため、念のためにアーリスへランタンを持たせた。僕は先頭に立ち、奴隷の縄を引く。今回はちゃんと靴も履かせてやった。我ながら至れり作れせりだ。
しばらく黙々と進んでいると、突然縄を引っ張られる感覚があり、後ろでドサリと倒れる音がした。振り返れば、奴隷が足元でうずくまっている。
「…立って。まだまだ先は長いよ」
僕がそう言っても、奴隷は反応しない。縄を引っ張っても、立ち上がれず、小さく唸っていた。顔を伏せているので、健康状態もよくわからない。
ため息をつき、状態を確認しようと僕はその場で屈んだ。その時。
「……ッおおぉ!」
奴隷が雄叫びを上げながら立ち上がった。どしん、と腹のあたりに頭突きを食らわされ、後ろに突き飛ばされる。ひるんだ隙を見て、奴隷は藪の中へ走っていく。
僕は即座にアーリスに向かって、自分の仮面に人差し指を当てるジェスチャーを送った。今にも「ご主人様」と叫びそうだったからだ。
「捕まえてくるから、先に戻ってて。普通はああなるもんだよ」
アーリスを安心させるため、無傷であることを見せながら指示を出す。彼は一瞬戸惑った様子を見せたが、すぐに頷き、塔の方角へ小走りで向かっていった。
一度だけ振り返って、心配そうに僕のことを見ていたアーリス。なんでもなさそうに手を振ってやったことが、少々後ろ暗い。
獲物をいたぶりながら狩るのが、僕の趣味の一つだなんて、彼は知らないのだ。
牙を剥き、満面の笑みで僕は駆けた。足跡を辿り、気配を殺し、木と木を跳んで移動する。
真っ暗な森の中、ボロを着ただけの人間がどうやって逃げるのか。匂いや足跡を偽装する知恵はあるようだ。しかし、森の木々は高く、月もまばらにしか見えない。
リングワンダリングしないはずがない。必ず近くにいる。もしくは、月の位置を確認しようと高所へ向かうはずだ。途中で脱ぎ捨ててあったローブを拾い、僕は捜索を続けた。
「……いた」
崖のふもと、岩場を縫うように奴隷は懸命に進んでいた。強い生への執着が見える。僕は口角を吊り上げて、気配を消しながらそっと彼に近づいた。
「っ……くそ…がんばれ、もうひとふんばりだ…!」
真後ろまでつけると、そんな独り言が聞こえてくる。両手も縛られているというのに、こんな岩場で足を滑らせたら大変だ。葉っぱと生傷だらけの体も痛々しい。
僕は彼を、しばらく見守ってやることにした。
両手が自由にならないので、奴隷は高所に登ることを諦め、川を探し始めたようだ。再び鬱蒼とした藪の中へ入る。
しかし結局見つけられず、数百メートル進んだ所でへたり込んでしまった。それを木の上から僕が見てるなど、思いもしないだろう。
さて、どうやって驚かそうか。寝入ったところを夜這いしてしまおうか。
寝っ転がって呑気に考えていると、「よし…」と下から聞こえた。ああなんだ、野営ではなく小休憩だったか。
さすがにこれ以上のんびりしていると、アーリスが待ちくたびれてしまう。僕は王道でいくことにした。
「もう逃げないの?」
歩き出した奴隷の真後ろで、声をかけてみる。ひっと短い悲鳴をあげ、奴隷は再び走り出した。ツヤのある黒い長髪が、月光に反射して揺らめく。
「そんなに急いだら、転んでしまうよ」
足元の木の根や石ころを魔法でどけてやりながら、奴隷の後を追う。「クソ」とか「チクショウ」とか叫びながら、奴隷は逃げる。
いくらか進むと、数メートル先に大樹を見つけた。根本には柔らかそうな苔が生い茂っている。僕は勢いをつけて跳躍し、奴隷との距離をつめた。
「ねぇ、あそこで休まない?」
「なにすっ…うわ!!」
後ろ首を掴んで、苔の上になぎ倒す。うつ伏せに倒れた奴隷は腰布がはだけて、尻が丸出しになっていた。ごくりと生唾を飲み込み、僕はそれに覆いかぶさる。
「おいっ…どけよ、どけって……!」
じたばたと暴れる奴隷の髪を掴み、僕は性急にペニスを取り出した。先走りを塗りつけ、無理やり腰を進める。
「なにしてっ…!?や、やめろ…!ふざッけんな!何考えてんだッ!」
「こういうのも悪くないね…。君、なかなかイイよ」
「ぅぐ……ぐあぁあ…ッ」
腰をがっちりと抑え、めりめりとこじ開けていく。さぞ痛むだろう。
だが一度これを最後まで味わってしまうと、どんな男も最後は骨抜きになれる。奥まで入ったのを確認し、ゆっくり揺さぶり始める。
竜族の性器は、この強い魔力のせいか、人を強制的に快楽へ引きずり込む作用があるのだ。
数往復もしない内、奴隷の獣のような唸り声は、艶っぽい吐息に変わってくる。
「よくなってきた?…太いカリがヒダを掻きむしって、カウパーとは違う分泌液が痛みを忘れさせる。鈍い圧迫感は徐々に痒みへ…やがて快感にすり替わり、腹の奥までくすぐられるような熱さで…貫かれていることを実感していく」
(と、昔抱いた男たちが言っていた)
「……っ…ふ……、…ぅぅ……ッ!」
きゅうぅぅ…、と中が締まった。僕のペニスを味わうように、腸壁がしゃぶりついてくる。それを中断させるように僕は、にゅる~~…とペニスを引き抜いた。
「…ぁあ、……ッ!…ゃ、…ゃ……んっ…」
ぬちょ、ぬちょ、と浅く焦らすように腰を揺する。艶のある吐息は、徐々に嬌声に変わりかけていた。
ひだが大きさになじんできたのを見計らい、僕は再び、一気に奥まで貫いた。
「…──ッッ!!」
ズチュン、という水音とともに、奴隷が腰をしならせる。まだ完全に溺れきってはいないだろうが、時間も限られているし、そろそろ済ませないといけない。
「本当ならもう少し楽しませてあげたいんだけど、ごめんね」
「ざけ、…っん、……やめ、あ、っく、…う…んんッ」
どちゅどちゅと突きながら、憎まれ口を叩く奴隷を犯す。久しく味わっていない新鮮な刺激だ。
「は、あぁ…ッ、ぐ、……ぅんっ…ひぐっ…、ッ!」
「コッチの才能はありそうだな。よかったよ」
きゅうきゅうとほどよく締め付け、いつの間にか僕に合わせて腰を振っている奴隷。めくれ上がった尻穴のひだが、僕の分泌した粘液でぬめっている。腰を引けば縋るように吸い付き、打ち付ければ従順に口を開く。
「出すよ…?」
耳元で呟くと、ビクリと震え、いやいやと首を振る。苔の地面にその頭を押し付け、僕は構わず抽挿を続けた。加速するピストンに、奴隷は額を苔に押し付けて耐えていた。
「うぅ…ぐぅ、…――ッうぅう…ッ!!」
ひときわ強く腰を打ち付け、奴隷がうめき声を上げる。
どくんと僕の性器が波打って、ほぐれてとろとろの中にまんべんなく精液を塗り付けていく。
「っく…ぅ……ッ」
歯を食いしばって屈辱に苛まされる背中に、すかさず魔力の籠もった息を吹きかけた。
「おやすみ」
力が抜けた体が、ぱたりと地面に沈んだ。
塔へ戻ると、仮面をつけたままだったアーリスが、無言の会釈で出迎えた。実験室は綺麗に整頓されて、ろうそくも灯され、準備万端といった状態だ。
「反対しないの?元同僚でしょ」
奴隷の枷を台に固定する間、アーリスに聞いてみる。黙って首を振ったので、仮面を取って喋って良いと許可を出した。
「ご主人様の意思は、わたしの意思です。あなた様のされることに、反対などしません」
「煙草はやめろってうるさかったくせに」
「あ、あれは…その、ご主人様が健康を損なわれるようなことがあっては、ならないと……」
「そう。なるほどね。そんなに僕が大事なんだ?」
「ご主人様に尽くすことが、今のわたしのすべてですから。……お嫌、でしょうか…?」
「ううん、ぜひそのままでいてほしい。君のそういうとこ、好きだし」
「……あっ、ありがとうございます…」
話している間に、枷の装着は完了した。奴隷は起きる気配がない。せっかくだから水桶と手頃な布を、なんだか顔を赤くしてるアーリスに持ってこさせ、体を拭くよう指示を出した。
明るい所で見ると、アーリスとはまた違った雰囲気の美男子だ。アーリスが華やかな美人なら、この奴隷は涼しげな美人といったところか。きりっと澄ました寝顔は、眉間にシワが寄っている。
「…少し遊びすぎたかなぁ」
「どのように捕縛されたのですか?」
「のんびり追いかけて、犯して、魔法で寝かせた」
「おかっ……!?そ、そうでしたか」
「ちょっと興味本位で観察しすぎたかも。でも打撲と擦り傷だけだし、中も傷つけていないんだよ。しかも擦り傷はほぼ、この子の自業自得だ」
喋っていたら、やっと瞼が動いた。ちょうど洗浄が終わったので、後ろに控えるようアーリスにジェスチャーで伝える。
「おはよう。よく眠れた?」
「……っ、ここ、は」
「僕の家だよ。心配しなくても、こちらに敵意はない」
「おっ…めえ、よくもそんなこと……ッ!」
ガシャ、と枷が音を立てる。起き上がろうとして動けず、奴隷は顔をしかめた。
「敵意がない?ハッ…じゃあ、これはなんだよ?」
「念のため、というやつだよ。拘束しないとまた逃げちゃうでしょ」
「あったりめぇだろうがこのクソ野郎!お貴族様だかなんだか知らねぇけどな、悪趣味な遊びに付き合って、誰がむざむざ殺されてやるかっつーんだよ!」
「ああ、あの話を聞いてたんだね。安心して、あれは方便だから」
「…ッハァ!?じゃあ目的はなんだよ?見た通り、この身一つだぞ」
「うん。君にはこれから、魔術の実験に付き合ってもらおうと思ってね」
「ならほぼ殺すと同義じゃねーか!胸くそわりぃ…」
「あのね…殺すつもりなら、セックス中にそうしてるよ」
「ッ!!……」
カッと顔を赤らめ、奴隷は歯を食いしばった。
「…なんだかずいぶんと気持ちよさそうだったじゃん?あんなによがって」
僕はわざと、アーリスにも聞こえるように奴隷に話しかけた。
「僕のチンポはそんなに良かった?」
「ふ…ざけ……っ」
「じゃあ質問を変えようか。名前は?」
「言うわけ、ねぇだろ」
「そうかぁ」
僕はなんでもないように答え、後ろに向かって手招いた。控えていたアーリスが、奴隷にも見える位置に立つ。
「おま…ッなんで……!」
「アーリス、これの名前は?」
「……ヴィル、です」
「おいっ!なんでこいつがここにいんだ!」
ヴィルが顔を真っ青にして、僕に問う。
「ゾンビでも見たような顔だね。大丈夫、アーリスはこの通り生きてるよ」
アーリスのローブを剥ぎ、執事服の姿にさせると、ヴィルは目をまん丸くして口をぱくぱくと動かした。
下からすくい上げるようにアーリスの右手を持ち上げ、ヴィルに見せつけるように、両手ですりすりと撫でてやる。まだ赤い薬指を、指先で扱くようにしたり、かと思えば触れるか触れないかの距離で、甲に爪を滑らせたり。アーリスはすぐに吐息へ色をにじませ始めた。
「ッの、外道…!アーリスに何しやがった…っ!」
これ以上説き伏せるのも面倒だし、このまま遊ばせてもらおう。
「アーリス、脱げ」
「!……っか、かしこまりました…」
いつもみたいに躊躇なく、というわけにはいかないようだ。ならよほど嫌なのだろう、ヴィルの前で裸になるのは。
「おい、アーリス…!?」
あっという間に生まれたままの姿になるアーリスに、ヴィルが目を泳がせる。僕は裸になったアーリスの後ろに立ち、淫紋が見えるように腰をヴィルの方へ突き出させた。
「これが見える?僕がアーリスにかけた術だ。とっておきの自家製でね、これにかかると、どんな命令にも背けなくなるんだ」
「…そんなことして、何がおもれぇんだよ」
「話は最後まで聞いて。これには様々な副作用…というか、複合的な効果があってね。個人差はあるが簡単に言うと、僕のチンポが大好きになって、とんでもない淫乱になってしまう。本来、射精を自在に操るという目的で作ってたんだけど…既存魔術を組み合わせる過程で、色々と付加価値をつけたくなってしまってね。いざ完成したものの、試験段階での運用は危険も多い。乱用していいものでもないし…それで、アーリスに話を持ちかけてみた。そしたら彼は喜んで、最初の被験者になってくれたよ」
「う、うそだ…こいつがそんなこと…!」
「嘘じゃないよ。アーリスはね、元々淫乱の素質があったんだ。色々と興味深い話を聞かせてくれたよね。本当は自分がどんな人間で、どんなことを望んでいたか…」
「……っあ、…ごしゅ、じ…さま…っぁ」
下腹部に置いていた手を、アーリスの性感を煽るようにするすると撫で付ける。太ももの付け根をなぞるだけで、ペニスがぴくりと反応した。
「アーリスはとても協力的だったよ。少なくとも自分から『実験台にしてください』と言う程度にはね」
「ぅ…あっ……は…ぅ、」
「……、本当なのか…アーリス?」
「ッ…あ、ああ。すべて、本当のこと、だ……ヴィルっ…」
ヴィルの目に、明確な戸惑いが浮かんだ。
僕の手に翻弄され、すぐに立ち上がったペニスから先走りを垂らし、悩ましげに呼吸するアーリスに、身を固くさせてしまっている。
「まだ信じられない?…それとも怖いの?こんな風になってしまうことが」
「ッあぁ!…ゃはっ…、ご主人様っ…そこ、あぁぁ…アッ」
アーリスの後ろから、濡れそぼった穴に指を入れてやる。そこはクチュ、という音を立てて、難なく僕の指を三本も飲み込んでいった。
「聞こえる?この音。すごいでしょ?アーリスのお尻の穴から出てる音なんだよ」
「やっ…あ、あぁっ!ご主人様ぁあっ……」
少し動かすだけで、クチョ…グチョッ、と、淫猥な音が響く。アーリスは快感に身悶え、僕にお尻を擦り寄せるように突き出している。
「どう?アーリス。かつての同僚の前で、あられもない声をあげながら乱れる気分は」
「は、恥ずかしい、です……っあぁ、み…見ないで、くれ…ヴィルっ……」
頬を赤らめて目を伏せ、羞恥に耐えながらも、アーリスは大人しくされるがままだ。
「嘘つけ、こんなに濡らしておいて…。見られて興奮してるんじゃないの?」
「ひっ…申し訳、ありませんっ…!ご主人様に、触れていただけていると思うと、それだけでっ…もう、あぁぁ…っ」
「……っ…」
恥じらいながらも、気持ちいい場所へ自ら導くように腰をくねらせるアーリス。そんな元同僚の痴態に、ヴィルは徐々に顔を赤くさせていった。
「ヴィル。残念ながら君は協力的ではないし、こうはなれないかもしれない」
僕は物欲しそうに揺れるアーリスの尻を見ながら、緩慢に指を動かす。焦れったい動きに理性を手放しきれず、アーリスは控えめに鳴いている。
「僕の手元が狂う可能性もあるけど、それより被験者の精神的抵抗の方が危険だ。嫌がっているところを無理やり施術でもしたら、どうなるかは保証できないよ」
「っ…脅すつもりか?その手には乗らねぇからな」
頭上で喘ぐアーリスを視界に入れないよう目を反らし、ヴィルはなおも気丈に振る舞った。しかし未だに、頬はほのかに桃色だ。動揺は彼の理性を着実に奪っている。果たしていつまで虚勢をはっていられるか、見ものだな。
「でも…怖くはないの、ヴィル?魔術実験における、過去の失敗例は山ほどあるんだよ。たとえば、四肢のいずれかが破損してしまったり」
「ッ……!」
「ああこれはもちろん、軽い方でね。全ての関節がゆっくり逆向きに回転していくのを感じながら、自らの首が折れるまで激痛の中、死に至った被験者もいた。他には、体中の血液が沸騰して破裂し、全身の穴から血を流して死んだケースや、体の中で小さな甲虫が増殖してしまって、一ヶ月間、激痛と幻覚に悶え苦しみながら絶命したケースもある。…ほんと、怖いよね。今思い出しても背筋が冷える」
僕がまくし立てるように喋り続ける内、ヴィルはすっかり黙りこくってしまった。
乾燥した口から、短く息を吐いている。なんとか落ち着こうと必死なのだろう。しかし、一度脳裏に浮かんだ恐怖はなかなか消えない。頭を抱えてうずくまることもできない、今の状況ではなおさらだ。
「最も多い失敗例は、施術した瞬間に、元の形がわからないほど細切れに、全身が弾け跳んでしまうことかな。これは痛みが一瞬で済むからマシな方だね」
アーリスの体に埋まっていた指を引き抜き、そのままやんわり押しのけて、僕は前に歩み出た。
かわいそうにヴィルは、呼吸も忘れて震えている。
僕は追い打ちをかけるため、ヴィルの前髪を掴んで僕の方へ向かせた。そして自分の仮面を外し、素顔をあらわにする。
「っ……ぁ…!!」
声にならない叫びをあげて、ヴィルは僕の顔を凝視した。竜族を見たことがなくとも、ひと目で人外とわかる顔だ。いいスパイスになる。
「それじゃ、始めるよ」
僕がそう呟いた瞬間だった。ヴィルがひゅっと息を飲み、最初は小さく、徐々に大きく、終いには部屋全体に轟くほどの大声で、叫びだした。
最初こそ「やめろ」や「離せ」といった意味のある言葉を叫んでいたが、僕が下腹部と額を乱暴に抑えた時には、もうただぎゃあぎゃあと喚くだけだった。
哀れな奴隷の悲鳴をBGMにして、僕はいつも通り、魔術を正確に組み立てて、ヴィルの体に吹きかけた。
螺旋の文字列が被験者の体内に納まると、アーリスの時と同じように、ヴィルの体は大きく一度痙攣した。悲鳴が止む。
目視で状態を確認していると、床に何かが滴り落ちる音に気づいた。よく見なくてもわかる、ヴィルは漏らしていた。
「…ふふ、そんなに怖かったんだね」
満足感で思わず笑ってしまう。まったく期待通りの反応が得られた。
「ご主人様、ヴィルは…その、……実験は、成功したのでしょうか?」
「ああ、多分ね。見てご覧」
恐る恐る声をかけてきたアーリスを呼び寄せ、下腹部の淫紋を見せる。
「あぁ…おめでとうございます、ご主人様。本当に、よかったです……」
僕の脅し文句もあってか、アーリスは本気でヴィルを心配していたようだ。全身から力が抜けたように、ほっとした顔を見せている。
「魔法の被検対象が非協力的だからといって、失敗なんかしないよ。攻撃魔法はどうなる?意思を持たない物質への干渉は?……もし失敗したとしたら、それは単なる僕のミスだ。さっき話した過去の失敗例は、そういう不幸な事故の話。しかも半分以上、僕の作り話だし」
「そ…、そうでしたか。ご主人様もお人が悪い」
困ったように片眉を下げて笑うアーリスに「人間じゃないからね」と笑いかけ、僕は思い切り伸びをした。
「体内疲労も蓄積してるだろうから、起きるのは朝になるかな。念のため、睡眠の魔法を重ねがけしよう。……ふぅ、今日は色々あって僕も疲れた。もう休むよ」
「かしこまりました。寝床の準備は整えておりますので、ごゆっくりおやすみなさいませ」
「ああ、おやすみ」
全裸でお辞儀をするアーリスに手を振って、僕は寝室へ引っ込んだ。
つづく
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