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第9話 禁術ユル『不老不死』

「ご…ご主人様!!大変です!!」  血液とサンプルを照合していると、ドア越しにただならぬ様子の呼びかけが聞こえた。この声はヴィルだ。ノックもせず声をかけてくるとは珍しい。 「入っていいよ」  作業机に向かったまま応答すると、すぐさまドアが開く。何かを引きずる異音に、反射的に振り向いた。 「どうしたの?それは」  ヴィルに寄りかかり、肩を預けているアーリス。目を瞑って脂汗を流し、呼吸も浅い。かなり辛そうな様子だ。 「わかりません…話してる最中、急に倒れてしまって。医療設備揃ってるここに…今ならご主人様もいるだろうと思って、連れてきました」 「寝台へ。手伝って欲しいから、消毒とマスクをして」  指示を出しつつ、手袋を取り替える。 「倒れた時の状況は?」 「よ、っと……ええと、ずっと普通に話してたんですけど。急にみぞおちあたりを押さえて苦しみ出して。俺の呼びかけにもあんまり反応しなくなって、こんな感じに」 「………ふむ」  寝かされたアーリスの瞳孔、脈を確認する。あまりよくない状態だ。ジャケットの前を開け、シャツ一枚にして首元を緩めてやる。 「アーリス、アーリス、…話せる?」  額に手を当て、青白い顔に話しかける。 「……っ、………ぅ…」  反応がない。だらりと力なく垂れ下がる手首を拾い上げ、採血の準備をする。ヴィルに気付かれないように、軽くそこへキスをした。“ごめんね”という意味を込めて。 「ご主人様、準備できました。どんな状態です?アーリス」 「心当たりはあるけど、…思ったより早かった。おそらく実験の副作用だ」 「……!」 「君にかけたやつじゃない。別のものを先日、重ねてかけたんだよ。多分だけど、急激な体組織の入れ替わりによるショック症状かな」  採血を済ませ、ヴィルに検査キットを持ってこさせた。検査は自動で行われるため、待ち時間にアーリスの服を脱がせて触診する。  どこにも異常は認められず、心肺も正常だ。軽い鎮静魔法を付与すると、予想通り呼吸は落ち着いてきた。 「血液は…ああ、やっぱり急激に変異してる。内部検査もしておきたいな。ヴィル、顎を固定してくれる?」  ヴィルは薬草家の才覚のせいか、とても手際がいい。手先も器用だし、教えたら医術もある程度はできそうだ。助手としては良い素材だな。  固定されたアーリスの口を開き、術式を形成する。 「これから僕の片眼がアーリスの体内を覗く。万一の時は、視界の補助をたのむよ」 「へ…?は、はい」  両手で頬を包み、親指を唇の両端に引っ掛け、自分の唇を合わせる。人工呼吸のように息を送り込むためだ。ヴィルにはキスしているようにしか見えないだろうが。  薄目を開けたアーリスと目が合う。鎮静効果のため、彼は動かない。まもなく視界の半分が切り替わった。  全ての検査が滞りなく終わった。外した手袋をヴィルに渡し、椅子に身を投げ出す。 「…とりあえず、身体機能への影響はない。このまま休めばその内治るよ」 「そうですか、わかりました。今、新しい布とシーツ取ってきますね」 「うん。あ、ついでにコーヒーと軽食をくれない?…甘い物以外で」 「……甘い物以外ですね、わかりました」  断られるかと思ったが、ヴィルは素直に僕の頼みを聞いてくれた。少しはなついてくれたんだろうか。  退室する背中を見送り、術後の一服。目の前では落ち着いた様子で、寝息を立てるアーリスがいる。  食道から直腸、その他の臓器までくまなく覗いたが、見た目の変化はない。だが消化吸収組織への変化は、特定物質の血中濃度で分かった。後日もう少し詳しく検査するが、ひとまず状態が落ち着いたら、すぐにでも試したいことがある。  アーリスの体は僕の精液を、主要な栄養素として認識したかどうか。  所要期間、量は不明だ。個体別で不規則な数値を出すはず。しかし必ず上限値は存在する。他の食事と同じように飢えを感じるが、死ぬこともない。分子構造の書き換えが終わり次第、飢えは消える。そこが完全な、不死化完了のタイミングと見て良いだろう。果たして1ヶ月かかるか、100年かかるか。ただ書き換えの途中から、ゆるやかに老化は止まっていくはずだ。  理屈はどうあれ、下僕が飢えに耐えかね僕の精液をねだってくる姿というのは…見ものだろう。考えただけで口角が上がってくる。 「ご主人様。コーヒーと軽食、お持ちしました」  数分後。片手にシーツとリネン布、もう片手にトレーを持って、ヴィルが現れた。 「ウェステリカブレンドの牛乳多め、砂糖なし。それに、野菜と生ハムのサンドウィッチです」  悪くないチョイスだ。鼻腔をくすぐるいい匂いに、頬がゆるむ。 「この前みたいに木苺のソースなんて、恐ろしげなものは入ってないだろうね?」 「もちろん。甘いもの以外って言われましたし」 「よかった。普段からアーリスの手伝いしてるし、薬草に詳しい君が…なんであんなモノ入れたのかとびっくりしたんだよ。てっきり嫌がらせかと」 「え?嫌がらせなんかじゃないですよ。……美味いと思ったんだけどなぁ…」  配膳を終え、寝ているアーリスに柔らかい布とシーツを被せながら、ヴィルは首をかしげつつ話す。 (美味いと思ってたんだ…)  それは余計に怖いのだが。おそるおそる皿の上にあるサンドウィッチを掴み、かぶりつく。 「……っ!うま……!?ンググ!!?」  一瞬、ほんの一瞬だけ美味かった。  だけど適度に腹が空いてたからって、大きくかぶりつきすぎた。  確かに甘いソースこそ入っていなかったが、ヴィルが生ハムと言ったものは生の猪肉だった。そこへビネガーとあり得ない量の塩(噛んだだけでじゃりっとする)、水分を含んだベチョベチョの黒パン、厚切りの生ウリが最悪のハーモニーを醸し出している。 「ちょっ…大丈夫ですか!?」  ヴィルが走り寄ってくる。僕はそれを手で制して、一気にコーヒーを煽った。 「ッ!!?グボア!!!」  全部出た。もう全部出た。皿と机、膝がびしゃびしゃだ。  なぜかコーヒーは塩辛かった。甘いものが苦手だからって、コーヒーまで塩辛くしろなんて言ってない。 「君……そんなに僕が嫌いかい…?」  恨みがましい目でヴィルを見る。しかし彼は心配そうに、おろおろと右往左往しているだけだった。 「す、すんません……お口に、合わなかったですか?」 「っそ、ゲホッ……。そうか。悪気はなかったんだね…。これ、味見した?」 「してないです」  なぜ得意げなのだろう。そこは褒められるべきところじゃない。 「俺、小さい頃から薬草ばっかかじってたから、人と違う味覚になっちまったみたいで」 「あ……そ、そうなんだ」  ナプキンで膝をぬぐってると、本当に申し訳無さそうな顔で、ヴィルは皿を片付け始める。 「だから俺の好きなモンだけ詰め込んだんですけど…。昔っからアーリスにも『料理だけはするな』って言われてて。こういうことだったとは……」 「鉄の胃袋というやつだね。耐毒なら竜族にも引けを取らないよ、多分。北東部の戦闘部族は、似たようなの食べてたし」  新しいナプキンで胸から膝までぽんぽん拭かれながら、僕はヴィルへささやかな称賛と皮肉を送った。 「今度からアーリスが料理作れない時は、僕が作るから。手伝いよろしくね」 「はい。ったく、なんでだろうな…ハーブティーは上手くできんだけどなぁ……」 「そういえばそうだね。集中作用とか入眠効果のあるやつ、あれは美味かったよ」 「ああいうのはウチらの専売特許ですからね。ただ薬草は毒になる物も多いんで、毎回かじってから、分量を確認してるんです」 「なるほど、人が毒に弱いからか。面白い話だね。……ん、起きそうかな」  ヴィルと僕の会話が耳に入ってきたのか、アーリスが身じろぎだした。急いで汚れたナプキンをヴィルに渡し、容態を確認する。 「アーリス、具合はどう?」 「……、ん…。はい…。すみません、ご主人様。ご迷惑をおかけしてしまったようで…。お陰様で、すっかり良くなりました」 「実験ユルの方の副作用だ、気にしないで。今までこういった症状、または違和感を感じたことは?」 「何度か腹部に…しかし、立てなくなるほどではありませんでした」 「そうか。今後も起こるかもしれないから、その時は無理をせずにすぐ僕に教えて。詳しいことは検査をしてみないとわからないけど…多くて、あと2、3回程度はあるかも。ただ、今日ほど具合が悪くなることはないはずだよ。ヴィル、メガネを」  メガネを手渡してやると、まだ目を腫れぼったくさせながらも、アーリスは問題なく起き上がった。体調は本当に回復できたようだ。 「異常を感じる所はない?」 「そうですね、特には……あ、いえ。何か、ご主人様から良い香りがします。起きる前までは香ったことのない匂いです」 「ん?ああ、ヴィルがコーヒーとサンドウィッチを持ってきてくれたから、それかな」 「いえ、そうではなく……何か、花のような…華やかな香りが。香水でしょうか」 「香水?つけてないよ。ちょっと鼻孔組織を採取させてくれる?」 「はい」  そのまま簡易検査を行う。しかし特に異常は認められず、この日はそれ以上の進展はなかった。  僕の精液を欲することによる、副次的なホルモンバランス変化だと判明するのは、また後日の話だ。遺伝子が番を判定する際の行動的特徴に酷似していた。  そうしてまた、僕の研究は一歩前進したのだった。  数日が経過したが、アーリスがあの時以上にひどく体調を崩すようなことはなかった。  つい先日試しに僕の精液を与えてみると、今まで与えたどの食事よりも美味しそうに、うっとりと味わって嚥下していた。それからというもの、得体のしれない空腹感に襲われるたび、彼は僕の精液をねだってくるようになった。  当然、ヴィルもその様子を目撃することになる。ちょうど今がそのタイミングになった。 「………あ、」  書庫で技術書を漁っていた僕。手伝ってる最中に空腹を訴えたアーリス。  そして今も、性器のみの女性化ポーション研究を諦めてなくて、余暇に資料を探しに来たヴィル。  役者が揃ってしまった、というわけである。 「お邪魔しました」  そそくさと書庫を後にしようとするヴィルへ、「待って」と声をかける。アーリスの舌でぬぐい終わった性器をしまいながら。 「ヴィル。いい機会だからもいっこのやつ、これから実験しよう。見てよ、アーリスもこの通り『元気』だしさ」 「う………」  嫌そうに視線をそらし、ヴィルは下を向く。まぁ嫌だろうな。生死を賭けた博打に加え、術後も倒れるくらいの副作用がある魔術実験の被検体なんて。 「もし無事に終わったら…えーと……お菓子あげるよ?」 「なんですか、その誘拐犯みたいな口上は…」 「………」 「…?命令すればいいじゃないですか。なんでしないんです?」  言えるか。「かけてくれ」と懇願されなきゃためらってしまうくらいには、そろそろ君らに愛着が湧き始めてしまってる、なんて。 (やれやれ。もっとろくでもないヤツなら、なんとも思わなかっただろうに。まさかこの僕が…“これ以上嫌われたくない”なんて、思ってしまうとはな) 「一方的な好意で、僕を嫌ってる子に無理やり同じ永久の時間を生きさせるのは……ちょっとね」 「……、え……?」 「ヴィル。ご主人様はお忙しいんだ。これ以上研究のお邪魔をするつもりなら、持ち場に戻りなさい」  剣呑とした口調でアーリスが叱責を飛ばす。これはわかりやすい、嫉妬だな。こういう修羅場はむしろ慣れてる。僕は勇んで、アーリスをなだめすかすために口を開いた。 「ッご主人様…!!」  が、ヴィルの突飛な行動で遮られてしまった。  彼は額を床に擦り付けて、なんと土下座し始めたのだ。あの時のアーリスと同じように。 「ご主人様…お願いです。実験台にはなります……いや、実験台にしてください。だからどうか先に、少しだけ俺の話……聞いてもらえませんか…」  前に踏み出そうとしたアーリスを手で制し、僕はソレを見下ろす。なにやら小声でボソボソ言ってるので、耳をすませると「そうだ…もう、認めねぇと。認めるしかねぇんだ……」という声が聞こえてきた。  諦観したのか、恭順したのか。どういった心境の変化なのかは知らないが、とにかく僕は彼の言葉を待った。自由にしてくれ、とか言われませんようにと祈りながら。 「俺……あ、あなたのことが…す……すす、好きです…!」 (…………ん?) 「最初は…嫌いだと思ってた。いきなりレイプされて、さんざ脅されて…終いにゃまともな生活も送れねぇ体にされて。でも今は違う。全然違うんです。ムチャクチャな、性奴隷みたいな命令されてもずっと、ドキドキしてて。この前なんか俺の変な趣味のことも、バカにせず聞いてくれて…アレではっきり分かったんです」  突然の告白は、濁流のような勢いで耳に押し寄せ、僕の頭に混乱と好奇心をもたらす。 「ほんとはいつも俺…ご主人様と話すたびに、小娘みたいに喜んでた。ぼんやり自分の気持ちに気づいてからも、反抗し続けたけど。それくらいでしか、俺はご主人様の『特別』にはなれねぇから。だからこの気持ちバレたくなくて、余計意地はって冷てぇ態度取り続けた。……けどもうこれ以上、無理だ。だって…嫌われてるなんて、俺がご主人様のこと嫌ってるなんて。そんな風にだけは思ってほしくない、…んです」  ヴィルは両手を頭の上に乗せ、髪をかきあげるようにして頭を抱えてしまった。 「好きです、ご主人様……。俺、あなたを本気で愛してます。お望みなら、なんでも言うこと聞きます。だから、だからどうか…俺のこと……」  僕を嫌ってるんじゃない?特別になれないから意地をはった?  何やら色々と、性欲以外も溜め込んでいたものがあふれ出してしまったようだ。しかしこれは……。 「ヴィル…、……」 「…俺だって。俺だって気持ちを伝える権利くらい、あるだろ…ッアーリス!」 「そういうことじゃない、ヴィル。我々執事は、ご主人様に求められる立場だ。逆であってはいけない。…何かを、それこそご主人様の寵愛を求めるような立場になってしまっては……」 「ビビってんのか?俺がお前よりご主人様に近づくのがそんなに怖えかよ?」 「違う!わたしはただ、執事としての心持ちを…ッ」 「綺麗事言ってんじゃねぇぞ!俺を近づけさせたくねぇからって、いつもいつもご主人様の周りうろちょろしやがって…お前の独占欲なんざバレバレなんだよ!」 「心外だ。そんなにご主人様のことを想ってるならなぜ、もっと礼儀正しくお仕えすることができなかった?今までどれだけご主人様に無礼を働いてきた!?そんな者に、一体どう安心して“わたしの大切なお方”を任せられるというんだ!」 「……二人共、落ち着いて」  大きく手を叩き、言い争いを始めた二人をこちらに注目させる。 「この際だ、ヴィルにも僕のことを話しておこう」  僕は二人を交互に見つめ、なるべく厳しく…教員時代のような顔つきで話すことにした。ぼふん、とソファに腰を下ろす。 「君たちに任せてる業務上、便宜的な上下関係は保っていてほしいけど。それとは別に、僕は君たちへ、可愛がる序列や指標を設けたつもりはないよ」 「それって、俺にも可能性があるってことですか?」 「ヴィル、僕はね。申し訳ないけど、被検体に恋愛感情は持たないんだ」 「…え……っ」 「ただ僕にとっての魔術研究は、色恋より何倍も大事なものなんだよ。……そこにはもちろん、被検体である君たちのことも含まれてる」  僕に一度抱かれた程度で恋に浮かされた教え子たちにも、こうやって諭してきた。  恋愛感情?そんなもの、僕にはわからない。ただ僕の周囲に侍らせるためなら、その感情も利用させてもらう。  ヴィルはやや打ちのめされたようだったが、これでいい。  たとえば僕がアーリスを頻繁に褒めて愛でるのは、もちろん彼が好ましいからという理由もあるが、それ以上に彼が、一線を越えようとしてこないのを知っているからだ。  どんなに疎く初心であろうと、アーリスはおそらくすでに乗り越えてきている。主人との距離の保ち方、下僕で居続けるための心持ちを。『元旦那様』の教育によって。無意識であるにせよ、望んだ待遇を維持する作法を身に着けている。  ヴィルはまだここが、いささか未熟だ。だから多少厳しい言い方をしてでも、彼を諭す必要があった。  そして僕は、今の研究を始めるに至った経緯、以前アーリスに話した内容と同じ話を、今一度話した。  これは僕の信念や、パーソナリティに関する話。だからおいそれと誰にでも聞かせられる話でもない。僕に心身を捧げた者たちとの、秘密の共有というわけだ。有り体に言えば、報酬のようなものといったところである。 「…そして、今に至る」 「………。あの…ご主人様は、おいくつなんですか…?」  話し終え、すぐに飛んできたアーリスと同じ質問に、僕は思わず頬を緩めた。 「わからないんだよね。数えてないから」  ソファに肘をつき、タバコを灰皿に置く。 「それで…どうする?ヴィル。僕は君の気持ちには答えられないけど、それでも実験する?」  まだ床にぺたんと座り込んでいるヴィルを、ソファの上で足を組み替えながら見下ろし、問いかけた。 「もうわかってると思うけど、君にかけるのは『不老不死の禁術』だよ」 「ッ……それ、って、」 「僕の執事として、僕と同じ時間を生きるということ」 「……好きでもないヤツを不老不死にして、一緒に生きてくれるんですか?ずっと一緒に、俺といてくれるって…ことですか?」 「へ?」  ああ、そうか。そういうことになるのか。ずっと見送る立場だったから、考えたこともなかった。 「正直言っちゃうと、君が嫌だと言っても離せないかも。一度術を施したら、逃がすわけにはいかないから」  だから僕から逃げるなら、不老不死を拒絶し続けて寿命で逝くのが一番いい。そういう意味を込めて言ったのだが、ヴィルは唇を噛んで顔を赤くした。 「でも、ご主人様にとっての俺は……」 「被検体」 「っ……、あ、ぁ……」  今度は太ももをもじもじと動かし始める。 「ねぇヴィル。君もアーリスみたいに、ずっと僕のそばにいてくれたら…とっても嬉しいんだけどな」 「ぅ…あぁぁ……ッ。ご主人様、ご主人様ぁ……っ!」  震える指先がすがるように、僕のつま先に伸びてくる。わざとそれを振り払うように、僕は足を組み替えた。 「し、シて…シてください…ッご主人様ぁぁ、」  てっきりまた、しばらくすねてしまうかと思っていた。  だけどヴィルはまったく逆の反応を示した。顔を真っ赤にして目に涙をにじませ、笑顔でまた僕の足にすがりついてきた。股間をパンパンに盛り上げて。  不思議に思って後ろに立ってたアーリスを見上げると、彼もまた、静かにほほえみ、発情した様子で僕に頷く。 (支配の禁術はやはり…対象の精神に影響を与えるものなのか?)  腑に落ちないことで頭をいっぱいにしながらも、僕らはその足で実験室へ向かったのだった。

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