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第3話
高校になると、顕が我が家に来ることのほうが多くなった。僕の家は高校からバスで10分程度と、顕の家よりもうんと近かったので、顕が部活や委員会なんかで遅くなった時には、夕食を僕の家で済ませるようになったからだ。
もうすぐ夏休みになろうという、ある日のことだった。その日も何かで帰りが遅くなった顕は、我が家に来て夕食を食べ、翌日は休みだからと、食事の後も僕の部屋でだらだらと過ごしていた。
「なあ、今年の花火大会、どうする?」と、僕は顕に聞いた。その前の年は僕の、前々年は顕の高校受験を理由に、2年連続で見に行けないでいた。
「寛人は行きたいの?」
「うん、久しぶりに行きたいな。」
「今年は、高校の友達と行くんじゃないの?」
「誘われたけど、顕が行くなら、そのほうがいいと思って、返事は保留にしてる。顕こそ、誰かと行く約束してるんじゃないの?」
「誰かって?」
「彼女とか?」
「いるわけないだろう。」
「モテてるの、知ってるよ。」これは本当だった。小さな頃から見ていたからピンとこなかったけれど、言われてみれば顕はきれいな顔立ちをしていた。その上、頭が良くて、物腰が柔らかい。派手にモテるタイプではなかったけれど、ファンの女の子は少なくなかった。「僕のクラスにも顕のこと素敵って言ってる子いるよ。あ、その子の写真見てみる? 入学式のクラス写真がどっかに……。」
「いいよ、見たくないよ。」
いつになく冷たくはっきりした口調で顕が言い、僕は驚いて顕を見た。僕の何が顕をそんな風に怒らせたのか、皆目見当がつかなかった。呆然と顕を見ていると、顕は僕の視線に気が付いて、少し頬を赤らめた。
「本当は、彼女いる?」僕は顕に言った。本命の彼女がいるのに、関係ない女の子の写真を見せようとしたから不機嫌になった。僕の想像力ではそのぐらいしか思いつかなかったのだ。
「いないってば。」
「じゃあ、好きな人がいる?」
顕は黙り込んだ。ああ、いるんだ。僕の胸がチクリと痛んだ。そして、その痛みの正体が分からず、戸惑った。小さな頃から知っていた従兄が、おとなしくて、奥手だとばかり思っていた顕が、僕の知らないところで恋をしている。そのショックだろうか。
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