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第5話

 言った瞬間、顕はハッとして、その次には見る見る瞳に涙が溜まった。 「ど、どうしたの。」僕は焦った。僕の投げかけた「好き」と、顕の「好き」は、明らかに質の違うものだった。そのことは僕にも分かった。そして、だから顕は涙を浮かべているのだということも、分かっていた。やがてその涙は頬を伝い、ぽたりぽたりと零れ落ちた。 「ごめん、寛人。」顕は立ち上がって、自分の荷物をかき集めると、僕の部屋から、そして僕の家から逃げるように去って行った。玄関の物音に気付いた母がキッチンから出てきた時には、もう顕の姿はなくなっていた。 「今、出て行ったの、顕ちゃん? どうかしたの?」と母が聞いた。 「明日、朝練があるの思い出したから、早く帰るって、だから慌てて。」僕はとっさにそんな風に言い繕った。  それっきり、顕が我が家に寄ることがないまま、夏休みに入ってしまった。連絡もなかった。僕のほうからは電話もメールもした。でも、返事はなかった。親伝いに連絡すればどうにかできるとは思ったけれど、話が大仰になりそうで、それは避けたかった。第一、何故直接連絡を取れなくなっているのか、その理由を親にどう説明したらいいのか分からなかった。  そうして、いよいよ今夜は花火大会という日。この日になっても、相変わらず顕とは連絡が取れないでいた。学校の友達からは再度の誘いを受けたけれど、断った。もう、僕の心は決まっていたからだ。  僕は直接、顕の家へ向かった。下手に連絡したら、逃げられてしまうかもしれない。1階の接骨院の前は素早く通り過ぎて、直接2階の住居部分に向かった。施術室から自宅に行ける内階段もあるが、建物の横には外階段もあるのだ。インターホンも鳴らさずにドアを開ける。鍵はかかっていなかった。 「顕。」僕はその名を呼びながら、彼の部屋へと乗り込んだ。顕の部屋の前に辿り着いた時、中から鍵を掛けようとしているのが分かったが、僕のほうが一瞬速かった。ドアを開けようとする僕と、閉めようとする顕との攻防は、ドアの隙間に足を入れた僕の勝ちだった。 「なんで来たんだよ。」やっとドアノブから手を離した顕が、うつむいたまま言った。 「約束したじゃないか。今日、一緒に花火大会、行くって。」 「行かない。」顕は僕の胸を押して、部屋の外に追いやろうとする。 「どうして。」 「分かってるだろ。」 「分かってるよ。だから迎えに来たんだよ。」 「じゃあ、分かってないんだ。」  僕は、僕の胸を必死で押している顕の腕をつかんだ。「分かってるよ。顕が僕を好きってこと。」

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