56 / 61
56 好き※ややR18回
史也は無事、第二志望の会社から内定をもらった。
この家から、電車で二十分ほどの距離にある大きな会社だ。
ここならすぐに引っ越さなくても済むよ。嬉しそうな史也にそう言われて、俺は血相を変えて詰め寄った。
俺は電車に乗るのを未だに怖がっている。それをよく知る史也は、俺に合わせて就職先の選択を絞ったんじゃないか。
俺のせいで、やりたい仕事を選ばなかったんじゃないか。
そうキツめに問い詰めたけど、笑顔の史也の答えは予想と違った。
「お父さんと、どうせなら一緒のマンションを買おうかって話をしててさ」
「は?」
ちょっと待て。いつの間にそんな話をしてんの。俺は一切聞いてないぞ。
俺は、いつもの如くあんぐりと口を開ける。史也は幸せそうに俺を腕の中に収めると、啄むようなキスを俺に与え始めた。
ちゅ、くちゅ、という音が、お互い熱を帯び始めた吐息に混じっていく。時折、史也のキスには、柔らかいけど逃がさないぞっていう意思を窺わせる若干のねちっこさを感じる時があった。今が正にそうだ。
「史……っん……、ま……っ」
喋ろうとしても舌が追いかけてきて、喋らせてくれない。ヤバい、このままだと、話をする前に溶かされるぞ。
俺が動けないでいる内に、人のジーンズのボタンを外すのはやめてくれ。
あっさりと前を寛がされて、キスだけで感じちゃった俺の中心を、史也が大きな手の中に包み込んだ。――くう。
「――史也! 説明! 触るのは『待て』!」
これ以上触られたら、確実に流される。史也の手を上から押さえながら、秘技「待て」を繰り出した。
「説明が先!」
「……分かった」
しょんぼりするな。
この秘技には由来がある。どうしても自分に何かやめさせたい時は言ってね、と以前史也に言われた時、咄嗟に「じゃあ『待て』にする」と答えたのだ。
以来、史也は犬の如く『待て』を言われるとお預けを食らうことになった。素直に聞いちゃう史也が、これまた可愛くて。――いや、今はそれどころじゃない!
「説明……あ、勿論これはまだ構想段階にあるんだけどさ」
そりゃそうだ。決定事項だったら、史也が時折起こす突拍子もない行動の内のひとつだからって、さすがに最大級の『待て』を出す。
……話の最中なのに、史也の手が俺のまだそこまで固くないアソコを下着から取り出しているのは何故だろう。
俺を緩やかに押し倒しながら、史也は穏やかな笑顔で説明を続けた。
「同じマンションで別のフロアだったらプライバシーも保たれるし、でも困った時は助け合えるしいいんじゃないかって」
「いや、そういうことを聞いてるんじゃなくて」
俺の股の間に身体を入れると、ゆるゆると扱き出す。おい。
「勿論、就職一年目でローン組むのは難しいから、実際の購入は二年目か三年目になると思うよ?」
「ん……っ」
まだ大事な話をしてるんだってば。感じるな、俺。
史也が俺のへそまわりをちゅ、ちゅ、と愛撫し始めた。手の動きは当然止まらない。あ、勃っちゃったじゃないか!
「だったらここは家賃安いから貯金もし易いし、なんせ陸と俺が最初に結ばれた思い入れのある愛の巣だし」
「……言い方っ」
史也の頭をぐいっと押し返すと、史也はピンと勃ってしまった俺の雄に頬を寄せて、物欲しそうに上目遣いで俺を見る。……その顔に俺が弱いことを、多分もう史也は理解してやっているんだろう。全く。
舌が伸ばされて、裏筋を撫で上げていく史也。ゾクゾクして、思わず「はん……っ」とエロい吐息が漏れた。史也が小さく笑う。
「陸だって、コンビニの契約社員になったじゃない」
「あ……っそ、そうだけど」
そう。先方からの話があって、俺は今月から契約社員にランクアップしたのだ。日頃の勤務態度に加え、高卒認定試験に通ったお陰もあるらしい。
店長に必須と言われる衛生管理者の資格は、中卒でも取れるけど、実務経験が十年必要となる。だけど、高卒だと三年で済むそうだ。
なるほど、こんなところでも役に立つんだなあ、と頑張った自分を褒めたくなったものだ。
史也に手と口で扱かれながら、甘い声はまだ出さないぞ! と気合いを入れながら続けた。
「ふ……じゃあ、それは分かったけどさ」
「うん」
「これはナニ?」
俺のモノを咥えている史也を指差すと、史也は細目を弓形にして幸せそうに微笑んだ。名残惜しそうに口をちゅぱんと離す。
「就職祝い、頂戴?」
「は? 俺のコレが?」
史也の目が、俺の勃ち上がり切った雄を凝視する。だから怖いってば。
「まあこれもそうだけど、とろとろの液体になった陸をご褒美に抱きたいです」
……きっぱりはっきりと言われた。
「……ほぼ毎日液体にされてますけど?」
恥ずかしいなとは思いながらも、期待に胸が高鳴る自分がいる。
史也が、幸せそうに頬を赤らめながら、細目を更に細くした。
「うん、だから今日も、これからも、いつも陸をトロトロにしていくね」
「ば……っ」
声を荒げそうになったけど、まあ……うん。
両手を伸ばし、唇を尖らせながら史也を見つめる。
「……ずっと、一生になっちゃうけど、いいの?」
俺の言葉に、史也が弾けたように顔を上げる。細目のある優しい顔立ちに浮かぶのは、明らかな歓喜の表情だ。
「うん、一生! 任せて!」
声がでかいってば。
「……あのさ」
「うん!」
「俺も就職決めたし、二人とも就職祝いだし、その……」
史也が、可愛らしく首を傾げた。
「うん?」
ああ、もう。
「……俺も、史也がご褒美に欲しいんだけど」
言って、顔から火が出そうになった。でも。
「……史也?」
史也が静かなので恐る恐る見上げると、いつものあの唇を口の中にしまった顔で震えているじゃないか。……可愛いんだけど。
「――あげる! 俺を全部あげちゃう!」
「だから声でか――……むぅん……っ」
史也の温かい腕に包まれて、食べられる様にキスをされる。腰に触れた史也の股間はもう固くなっていたけど、きっと今日も極限まで我慢しちゃうんだろう。
俺の為に。
「史也……好き……」
「俺も好き……陸、陸……っ」
「ん……っ」
畳の上に組み敷かれて、今日も俺は史也に液体にされてから愛される。
史也の愛はちょっぴり重い時もあるけど。
好き。
たったふた文字のその言葉を、今はいつだって伝え合える。その奇跡を、史也が日常に変えてくれた。
「史也あ……っ」
史也の細目の奥を覗き込む。そこには、いつだって俺にだけ向けられる熱が籠っていて、俺はそれを見つけたくて史也の目を覗き続けるんだ。
ヒョロい細目の俺だけのヒーロー、大好きだよ、と。
ー本編完ー
ともだちにシェアしよう!