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番外編3 幸福な時間

 戸惑っている状態の陸をかなり強引に家に連れ込み、抱いた。  俺が初めての男だという陸の蕾は、最初は凄く硬かった。  もう何年も誰かの為に何かをするなんて仕事以外にしてこなかった俺が、陸が痛くなって俺を拒絶しないようにと必死で解したんだ。我ながら必死すぎて笑えた。  最初の一回が終了すると、ガクガクと小刻みに震えている陸を全身で優しく包み込む。 「このままずっとうちにいればいいよ」  初めて後ろから受け入れたダメージでぐったりしている陸の小さな頭を、髪を梳くように撫でながら伝えた。 「え……い、いいの?」  涙ぐみながら微笑む姿に、震えるほどの喜びを覚える。鼻の穴が膨らんでしまいそうな愛しさに、息苦しくなった。ああ、俺は今笑っちまうくらい興奮してるんだ。そのことが、心底嬉しかった。 「その代わり、勝手にどこかに行くなよ?」  我ながら甘ったるい声が出たな、と内心呆れながらも、陸の反応をひとつでも見逃したくなくて見つめ続ける。 「うん、行かない」  しっとりと濡れたまつ毛が小さく震えた。小鳥のような囁き声で答えるハスキーボイスが、只々可愛い。見た目も声も弱々しい姿も、全てが俺の理想だった。  出してスッキリしていた筈の熱が、再び中心に集まってくる。 「なあ、もう一回いい?」  明るく尋ねれば、疲弊しきった陸は、躊躇いがちにだけど頷いてくれた。 「う……うん……」  嫌がらないってことは、やっぱり陸が俺の探していた相手だったんだと思えた。 「陸、可愛い」  こんなことは一度だってしたことがなかったのに、我慢できなくて陸の頬に唇を押し当てる。可愛い。全部食べちまいたい。 「え、と」  戸惑う陸の顔すらも愛おしい。 「陸はとっても可愛いよ」  裸のままの陸の身体に、キスを山のように落としていった。 「へ、へへ」  遠慮がちに、だけど嬉しそうに小さく笑う陸を、その晩俺は陸が意識を失うまでしつこく抱いた。最初に俺という楔を打ち込んで、俺から絶対に逃さない為に。  それからの日々は、俺が長年欲していたものそのものだった。  陸は、俺が欲しかったもの全てを与えてくれたんだ。  家では相当酷い扱いを受けていたらしくて、しょっちゅう夢でうなされる。抱き寄せると落ち着くこともあれば、小さな悲鳴を上げて飛び起きることもあった。その度に俺は陸を抱き締めて可愛いと言い、陸が夢を見なくても済むくらいに執拗に抱いた。  陸が恐怖に打ち震えて俺に縋ってくると、俺の中にあった大きな穴が満たされていくのが実感できたんだ。  泣いてパニックになることもしばしばあったが、俺にべったりとくっついてくるのが恐ろしいほどに庇護欲を掻き立てて、堪らなく幸せに思えた。  捨てられて警戒する野良猫と距離を縮めていくように、少しずつ陸との関係を深めていった。次第に陸の身体から緊張の色が消えてくるのを見て、そろそろ次の対策を取る時期に来たことを悟る。  俺は当然、家事だって普通以上にこなせた。だけど、陸が怯えて絶対に俺と一緒にいる時じゃないと外に出ようとしないことに気付くと、ずっと家の中にいる陸が退屈しないようにと家事ができないふりをすることにした。  これも陸を俺に縛り付ける作戦のひとつだった。気付かれないように静かに蜘蛛の糸を張り巡らし、自立なんてしなくてもいいようにじわじわと囲い込んでいったんだ。  ひと月が経ち、ふた月が経ち、徐々に陸の様子が落ち着いてくる。半年経つ頃にはパニックになることも殆どなくなって、次第に俺は不安になってきた。  俺だけを頼りにしてくれている陸が、外に目を向け始めたらどうしようと。  だけど、陸は相変わらず外に出ることを極端に恐れていた。近所のスーパーやドラッグストアに行くのすら、俺と一緒でないとままならない。だからまだ大丈夫だ、と自分に言い聞かせた。  陸は、とにかく可愛かった。俺が喜ぶからとフェラを覚えてくれたし、新しい料理にチャレンジして俺が「うまい」と喜んでみせると、心底嬉しそうにはにかんでみせた。  俺が褒めると、陸は照れくさそうにしつつも素直に喜ぶ。そんな可愛い姿は、俺に劣情をもたらした。最初の頃は、パニックで手がつけられない陸を疲れさせて寝かせる為に優しく抱いていた。だけどこの頃になると、陸がよがって泣く顔が見たくて仕方なくなってくる。  懐かせる時期が終わったことで、俺を陸の中に刻みつける時期が来たと思った。抱いて、要求して、抱いて、抱きまくって、陸の中を俺の形に変えていく。  喘ぎ声が嫌だと親指を噛む姿は、辛いことに耐えている子供のように思えて激しく庇護欲を誘い、俺の中の支配欲はどんどん膨れ上がっていった。  ずっと、もうずっとこのままがいい――。  最初の一年半は、ヤバいくらい満ち足りていて幸せそのものだった。  だけど、恐れていた変化が訪れる。  すっかり家事に慣れた陸が、「涼真は疲れてるだろ? 涼真が寝ている間に買い物を頑張ってみようかと思って」と言い出したのだ。  嫌な予感が過る。しかし、確かに毎回全ての買い出しに付き合うのは、深夜の仕事をしている俺には辛い時があるのも事実だった。  だからつい、言ってしまったのだ。 「……無理すんなよ」 「うん! 頑張るから見てて!」  健気に拳を握り締める陸を見ていたら、やっぱりやめてくれとは言えなくなっていた。  それから、少しずつ陸が外出する回数が増えてきて。  とうとう、恐れていたことが起きてしまった。  陸が、郵便受けに入っていた地元のフリーペーパーを握りながら、言ってきたんだ。 「俺さ、ずっと涼真に世話になってばっかりじゃん? こんなんじゃ、いつまで経っても涼真が働く格好いい姿を見に行けないよな」 「何言ってんだよ。別に普通に来りゃいいじゃん」  陸は絶対に電車に乗ろうとも、俺と陸が出会った俺の職場がある駅にも行こうとはしなかった。この一年半、一度たりとだ。理由は、知り合いに会いたくないから、だった。  それまでの間に、陸が家の奴らや同級生らにどれだけ酷い目に合わされていたかを聞いていた俺は、油断していた。陸はこの街から出られないんだと。  だから、俺の言葉だって「どうせ無理だろうし」っていう前提で喋っていた。  だけどこの時の陸は、いつもより頑固だった。 「だってさ、バーだよ? 俺、自分で稼いだお金で飲みたい! だ、だから、徒歩圏内でさ、コンビニバイト、してみようかと思って……!」 「え、そうなの? だけどなあ」  陸にはハードルが高いんじゃないかとも思ったし、家から長時間出られるのは俺が嫌だ。反対する気で答えると、陸がとんでもなく可愛いことを言い始めたじゃないか。 「だ、だって、涼真のバーにお金を支払ったら、涼真のお給料に還元されるだろっ! 俺、涼真の役に立ちたいんだっ」  ……そんなことを言われたら、何でも許せてくるだろうが。  この時の俺が、正にそれだった。 「……んー、じゃあさ、お試しで軽めにやってみ? でも、無理は禁物だぞ」 「え、い、いいの!?」 「だって俺のバーに行きたいからなんだろ? それに近場なら心配もないし」 「やった……! お、俺、頑張る!」 「おー、頼もしいな」  いや、正直言って心配しかない。だけどこんなにも俺の為を思って行動しようとする健気な姿を見たら、反対なんてできなかったんだ。  陸の腰を引き寄せ、おでこにキスを落とす。 「陸、お前な。働くっつっても、まず面接とか履歴書とかあるんだぞ? 大丈夫なのか?」 「え……っ、涼真、やり方教えて……っ」  途端に不安げな顔になるのが、これまた可愛い。そうやってずっと俺を頼っていてくれよ。 「仕方ねえなあ。じゃあ一回口でシて。そしたら教えてやるよ」 「や、やる!」  陸はその場でしゃがみ込むと、いそいそと俺の前を寛げ始めた。俺に仕込まれてすっかり淫乱になった陸が、可愛い小さな口を開いて俺のブツを口に含む。懸命に愛撫する陸の虚ろになる目が、堪らなくそそった。あっという間に硬くなる。  ――大丈夫。陸は俺のことしか見えてねえから。  陸に大事なところをしゃぶられながら、大丈夫、大丈夫だと自分に言い聞かせつつ、陸の口腔内に熱い飛沫を放った。

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