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8:vsチーター
今度のフィールドは高低差が激しい。激し過ぎる。近未来都市をイメージしたマップはでかいビル群と、ビルとビルの間の平地にコンテナキャンプこと"家"を点在させている。
FPSの基本は高所をとることだからビルを拠点にするのが良いかと思えば、このフィールドでは違う。ビルの低層階には入口以外に顔を出せる窓が無く、ビル内から狙撃しようと思うならかなり上らなければならない。窓がある高層階から平地を狙おうとすると、今度はビル間の移動に使う鉄骨の橋の通路が邪魔になる。平地の家はこの橋の下に建てられている。恐らくこのフィールドはビルはビル同士、平地は平地同士、上下に分かれて戦えという意図で作られているんだろう。
「単スナがあったら俺」
平地でアイテムボックスや家々を巡って装備品を集めていたら、zh@が装備品のリクエストをした。単スナは連射ができない単発のスナイパーライフルの略だ。弾が大きい分、与えられるダメージが大きい。
「このマップでもスナイパーすんの?」
スナイパーライフルの使いどころがあるのか聞いてみた。高所という高所が取れない、スナイパーには不利なマップだ。
「ショットガン代わりにする」
「嘘だろ、頭おかしいって」
zh@の単スナの使い方を疑ってしまった。
スナイパーライフルは腰撃ちが出来ず、使い所が難しい武器だ。ADS(Aim Down Sight)と呼ばれるスコープを覗いた状態で必ず撃たなきゃならない。ゆっくり相手を狙い定める遠距離だとそれでもいいが、近距離で撃ち合いになったらそんなことやってられない。視界の広さが全然違う。それにショットガンやアサルトライフルと比べてエイムアシストが入らず、わざと当たりにくい仕様になってる。
連射も出来ない、視点も狭い、エイムも難しいとなると、遠距離以外で使うやつはまず居ない。
「でも一番ダメージが入る」
「わはは、ぜっとさんすげぇ~」
zh@が平然と弾が当たる前提で話し、ヤカモレさんが笑って褒めた。
「チーター相手に撃ち合いなんかしねぇからな」
「……さすが」
俺も褒めた。
確かに、単スナは相手のアーマー次第だがヘッドショット一発でダウン出来る。チーター相手に一撃で勝負つけられるなら、それが一番良い。……どうせ今回の試合にもチーターは居るんだろう。
「またチーターマッチかな」
「いや無いでしょ~、流石に3連続は」
「キルログ見ろよ」
zh@に促されて俺とヤカモレさんが右上の交戦ログを見た。
「……あっ」
「…………」
ヤカモレさんも気づいたし、コメント欄も『あっ』『さっきの』と気付いたリスナーがコメントしていく。思わず俺は黙ったあと、盛大に声に出して息をついた。
「はあああ~~~!」
さっきのチーターがいる。
「あのブデルかよお!」
俺らを3人抜きしたデケェ男だ。そのキャラ名を叫んだ。元々防御力特化の前線が得意なキャラだ。更にチートのオートエイムのせいで中距離も遠距離も何でも来いの最強キャラになっていた。
「えっ、でもこれやられてんのチーターの方じゃない!?」
ヤカモレさんがよくよくログを見て驚く。俺も確認した。本当だ、ダウンさせられてる。
「あいつ倒すとかすごくない!?」
「相手プロだろ。名前見たことある」
「まじか、このままキルしてくれねぇかな」
すぐ近くでチーター対プロゲーマーの戦いが繰り広げられていた。この2チームが潰し合ってくれるとかなり助かる。漁夫を取りに行くかと聞いたが、「多分ビルの上だ」とzh@が言うから諦めた。そのまま平地を漁る。
「いるいる、2人いる」
ヤカモレさんがマップに印をつけ、俺とzh@に敵位置を共有する。
「外のアイテムボックス漁ってる」
「ほんとだ。気づかれてない? 撃とうぜ」
「俺が割る」
zh@が岩の影からアサルトライフルを構えて撃つ。まだご希望のスナイパーライフルは見つかっていない。タン、タン、と銃声が2回聞こえる。
「割った」
アーマーが割れるとすぐに敵が気づいて撃ち返してくる。zh@はすぐさま岩に隠れ、俺とヤカモレさんが別方向から攻撃した。ヤカモレさんが1人ダウンさせる。
「家の中逃げる!」
俺はアーマーが割れてない方を担当したが、割りすら出来なかった。zh@が岩影からスキャンを飛ばす。
「そいつ金アーマーだ」
「まじか、欲しい! 詰めていい!?」
キルすると相手の装備品を奪える。距離を詰めるか聞いて、返事を聞く前に突っ込んでいた。
「あ!? 待て、おま」
家の中に入った途端、脇からズドン。即ダウンした。中にもう一人居たのだ。
「スキャンマップ見ろアホ!」
「ごめえええん!」
逃げる敵しか見てなかった。これいつも俺がzh@に怒られるやつ。流石に謝る。でも撃ちながら追いかけてったから、逃げて行った敵には結構ダメージが入ってる。倒れてる俺の上を銃弾が通っていった。ヤカモレさんが瀕死の敵をそのまま倒し、俺を回収するためにダメージ覚悟で中に入った。zh@は扉から向かって斜めに家に近づいていき、外を伺いながら敵の体が射線に入ると撃っている。
「ヤカモレさん、近くに別パいる」
「おっけ!」
zh@も家の中に入ってきた。2人で最後の1人をリンチして、すぐにzh@が俺を起こす。
「お前は~~~!」
「ごめんって!」
「ギリギリだったぞ」
横で回復してるヤカモレさんの体力ゲージがぐんぐん伸びていく。俺のために命がけで突撃していた。zh@の説教が始まるかと思ったが、外に漁夫を狙った別パーティが居るからすぐに死体の装備品を手にする。「マキちゃん、金アーマー」とヤカモレさんが俺に渡した。
「ヤカモレさん着ないの?」
「これはマキちゃんでしょ~」
「また死んだら困るからな」
まじでzh@、一言多い。
zh@はしれっと奥の死体からスナイパーライフルを奪い取っていた。スキャンを一度飛ばして、扉前に立つ。
「……外居るな」
「出る?」
「上行く」
zh@が階段を上って屋上に出る。屋上といっても一階建ての箱型のコンテナだ、高くない。貯水槽だか発電機の電源盤だか分からないが身を隠せる遮蔽物がいくつかある。
俺とヤカモレさんは屋内に戻り、外から隠れるように窓脇に並んだ。すぐに散弾が打ち込まれ、窓ガラスが足元に散らばる。
「1人詰めてる!」
窓すぐ側に居る敵に向かってzh@がスナイパーライフルを撃つ。でも遅い。割れた窓から筒型のトラップが投げ込まれた。ヤカモレさんの目の前に落ちた。
「ガス!」
ぶしゅっと音を立てて黄土色のガスが筒から噴出して一気に広がる。毒ガスだ。即死はしないがこのガスを浴びてる内はじわじわとHPが削られ、視界も悪い。
「外出る!?」
「窓際、肉ダメ78入ってる!」
トラップを放り込んだ敵をずっとzh@が攻撃していた。逃すわけにはいかない。敵の射線なんか気にせず、俺が外に出て追撃してダウンさせた。
「マキちゃんそこ射線通ってる!」
「うえっ、痛い痛い!」
やっぱ外に出ると狙い打たれる。ガスが充満する家の中に戻るわけには行かず、連射攻撃を受けながら家の裏に隠れた。
「あの岩に1人ずっと居る」
100メートルくらい離れた場所にある岩をzh@がマークする。岩の裏に隠れた敵を狙い、体が出てくる度にzh@は狙撃していた。窓を割って俺を攻撃していたのはこいつだ。ヤカモレさんがもう一人を探して周りを見る。
「あと一人は?」
「スキャンに出ない。どっか上っていってるな」
「上取るつもりかな」
平地と言っても家より高い岩や小高い丘はある。そんなに高くないから家と家の隙間を通すくらいの射線しか通らないが、平地よりかはやっぱ有利だ。
「……は!? 悪い、ノック!」
zh@が突然ダウンした。
「は!? つっよ!」
「蘇生する!」
どこからか狙撃された。銃声は1回しか聞こえなかった。一撃だ。ヤカモレさんが飛んでzh@が倒れた屋上に上がる。
「岩裏のやつアーマー割ってるぞ!」
死に際もzh@は攻撃を続けていたらしい。その報告に俺は飛び出して岩のやつを狙いに行った。zh@を狙撃したやつが俺のことを狙い当て、一瞬でアーマーが割れた。そのまま肉体にもダメージが一発入る。構わず走って岩に向かう。俺が囮にならないと蘇生中のヤカモレさんが狙われる。
「おらぁっ!」
岩裏の敵をショットガンでダウンさせて身を隠す。2発も撃たれたからどこから弾が飛んできたかは分かってる。近くの家の貯水槽の上を見た。――でっけぇ図体した、限定スキンの男キャラ。
「あんの野郎! 生きてんのかよ!」
お馴染みのチーターだ。どうやらプロチームは負けたらしい。
蘇生されたzh@の銃弾がチーターに向かって飛ぶのが見えた。体を遮蔽物から出した瞬間にチーターのオートエイムが照準を合わせてくるから、反撃されてzh@のHPが一気に減る。
「くっそ、強いな」
zh@が身を隠して回復する。俺も回復してアーマーまでマックス状態にしながらそれを見ていた。
味方は2方向に分かれ、チーターが狙うべき的が分かれてる。敵で生き残ってるのはあのチーターだけ。今のzh@の狙撃で70ダメージ入ってた。――いけるんじゃないか!?
「……あ!? おい、マキ! 出るな!」
「102!」
zh@の静止の声を無視してアサルトライフルを連射した。レレレ打ちが綺麗にハマって足し算してダメージ計算する。向こうも打ち返してきたが流石金アーマー、一撃じゃ割れない。
いける!
「くっそ、あいつ! ヤカモレさん!」
「うん! 回収する!」
敵のチャージライフルが飛んでくる。岩に隠れてもバリバリ電気が浸食してくる。やり過ごしてもう一発、と思ってたらヤカモレさんの飛行キャラが飛んできた。ADSが強制キャンセルされて体が浮く。
「はあ!? 何で!?」
「マキちゃん、パルス来てっから!」
ヤカモレさんの言葉にようやく警告音が耳に入る。ビーッビーッと耳障りな音と共に熱風が近づいてきた。パルスだ。
パルスはこういうバトロワ系のゲームによくあるギミックで、時間経過と共にフィールドの外側が徐々にダメージフィールドになっていく。少しずつフィールドを狭めていくことで、強制的に接敵させて決着をつけさせるわけだ。パルスに入ったらHPマックスの状態でも20秒で死ぬ。
ヤカモレさんに連れさらわれながらもチーターのブデルに向かって銃を向ける。20入った。
「いける! おろせよ!」
「馬鹿か、パルスで死んだら誰が回収すんだ!?」
俺を叱りながらzh@が近づいてくる。ヤカモレさんの能力で3人飛んで逃げるつもりだ。チーターは俺らを追撃しない。ダウンしてる味方がパルスに飲まれる前に蘇生させるつもりらしく、俺に背を向けている。――今なら殺せる!
「120入ってる!」
「ヤカモレさん飛べ!」
俺のダメージ報告を丸無視したzh@が合流して、ヤカモレさんの背中のジェットが勢い良く噴出される。
「くっそおおおお、あの野郎!」
でけぇチーターの図体がみるみる小さくなっていく。
「殺せなかった! あとちょっとだったのに!」
「前に3タテされてんのに何言ってんだ」
「ちくしょう!」
「ヤカモレさん、多分こことこことここにいる」
悔しがる俺の叫びなんてまた丸無視だ。zh@がマップに印をつけて敵チームがいる場所を伝えていた。どこに着陸するか相談してるのだ。
「平地ばっかだな~、タワーの方いく?」
「いいかもな。パルスぎりぎりのところに降りよう」
「何で2人ともそんな冷静なのぉ!?」
俺はまだ腹の虫が治まらない。何なら強制的に戦闘を終了させた2人にもムカついている。あと何発かで殺せてたはずだ。パルスがなんだ、チーターが何だ。びびってんじゃねぇ。
「これでまた向こうフルパで来るじゃん!」
「こっちもフルパ以上で行きゃいいだろ」
ぎゃあぎゃあ言い続けてたらようやくzh@が会話の相手をしてくれた。
フルパはフルパーティの略で1チームのパーティで1人も欠けること無く、体力や装備も万全の状態のことを言う。さっきの俺らもそうだった。チーター1人に対してフルパ3人で敵前逃亡してるのだ。
「正面切って戦う馬鹿が居るか。乱戦に持ち込む」
パルスと通常フィールドの境目が見えてる、本当にぎりぎりのところでヤカモレさんは降りた。パルスを背にして少しずつ進めば後ろから攻撃されることはない。パルスで強制的に集められたチーム同士、試合終盤は乱戦になりがちだ。
「あんな目立つやつだ。殺したいのはお前だけじゃねぇよ、マキ」
生き残った人全員でチーターと戦う。そう言うzh@も殺意満々だった。
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