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9:因縁

 パルスを背にして少しずつ先に進む。頭が冷めて余裕が出来たからコメントをさかのぼって読んでみた。先程のチーターのブデル戦、俺を応援するコメやトドメさした方が良かったってコメントが結構ある。ほらな、やっぱそうだろと思うものの、zh@の判断を支持するコメントの方が圧倒的に多い。 『パルス来てんのにやるな』 『共倒れになるところだった』  クソ。全くその通りだよ。 「左側、ずっと狙われてる」  ヤカモレさんが窓から顔を出して隣のビルを見る。瞬間、撃たれて顔を引っ込めた。パルスによって狭められたフィールドは、結局平地に収束するようだった。この先は平地しかない。ビルから出て早いとこ隠れたいが、もういつ敵とかち合ってもおかしくない距離までフィールドが狭まっていた。フィールドの中心部に一直線に向かえば狙い撃ちにされる。通常フィールドの外側の円に沿って少しずつ中心部に向かうのがセオリーだ。 「右回っていくか? ……隠れるところねぇな」 「左回りしかないね~、射線切りながら行くしかない」 「ここと、ここと、ここ……俺らがここ。あと1パどこだ?」  全部で5チームまで減ってる。ほとんどのチームを目視で確認できるくらい近い。 「行くしか無い」  作戦会議してるzh@とヤカモレさんに言った。 「出ないとどうせやられる」 「だな」 「マキ、射線切れよ。狙ってんのここだぞ」  zh@のキャラが隣のビルに体を向ける。俺らのいるビルの左側はちょうど家が立ち並び、その裏を通れば狙撃を待ち構えている敵から隠れて移動出来る。距離もあるし、遮蔽物もあるし、どちらかといえば俺らが有利だ。向こうも今の状態で本気で戦いには来ないだろう。それでも家と家の合間にちょこちょこと体を出した瞬間にアサルトライフルのレレレ打ちが飛んでくる。 「いって、いて、やばっ」 「やばい?」  zh@が心配して確かめる。この嫌がらせみたいな攻撃で死んだら明らかに相手がチーターだからだ。 「やばくない! 普通!」 「……ふっ」  俺の言い方が面白かったのか、小さく笑う。しばらく進んで遮蔽物の影に隠れて回復する。 「結構近いと思うんだけどな」  zh@がどこにいるか分からない1チームを探していた。スキャンは飛ばさない。敵側も俺らの位置を既に目視で確認してるかもしれないが、スキャンを飛ばしたら明確な開戦の合図になる。  南側からじりじりと移動してきてる俺らのログに何も出てこない。近くでやりあってる連中はいない。 「キルログ出てないなら北側でやってんじゃない?」 「かもな。静か過ぎる」 「目の前の奴どうする?」  zh@とヤカモレさんは全体の戦況を把握しようとするが、俺は目の前のことしか分からない。岩陰から目の前を移動するやつをどうするか聞いた瞬間、zh@がスキャンを飛ばした。 「バレた」  目が合ったらしい。次の瞬間、zh@が落ちる。 「ブデル!!」  チーター。  お馴染みのでっかい図体に思わず口の端が上がる。 「そうだよなあ! 生きてるよなあ!!」 「マキちゃん、一人詰めてきてる!」  すぐにヤカモレさんがzh@を起こしに向かったから、同じ岩陰に向かう。詰めてきたやつは人だ、チーターじゃない。撃ち合ってダウンさせる。そのまま岩陰から出た。全員が同じ場所にいたらまた詰めてこられて、zh@の蘇生の邪魔になる。 「くそっ、また真正面か!」  乱戦に持ち込みたかったzh@が悪態づく。チーターはチャージライフルで蘇生中の隠れ蓑にしてる岩に向かって撃っていた。 「78!」  チーターにダメージを入れた。すぐに銃口が俺に向く。 「深追いするな!」  もう一人の人は岩に詰め寄っていたからヤカモレさんが応戦してる。チーターと俺、1対1だ。中距離で向こうは単発のチャージライフル。撃つまでの溜めの時間に出来る限り連射する。 「24、12……53!」  チャージライフルが一撃来た。くっそいてぇ。移動しながら撃ってたから急所は外れたが、アーマーの耐久ゲージがごっそり減る。金アーマーじゃなかったら割れてる。zh@がスナイパーライフルで狙撃してチーターのアーマーを割った。 「マキ! 行くなよ!!」  行くなって!? アーマー割れてるのに!? 「…………クソが!」  大人しく後退する。もう一発、チャージライフルをくらった。距離をとったおかげか、運良くHPが1ミリ残った。ヤカモレさんもアーマーが割れてる。ヤカモレさんは目の前に居る人の敵を無視して、チーターに向かってグレネードを投げる。 「刺さった!」  でけぇ手裏剣みたいな形の手榴弾だ。刺さったら爆発し、ダメージは大したことないが一定時間視界が霞む。ドォン、と爆発音と大量の煙がまかれた。チーターが煙に覆われてるのを横目に、zh@がヤカモレさんに向かってる人に何発か入れる。 「建設現場の方、行け!」  この隙に移動する。 「マキちゃんそれ生きてんの!?」 「まじで運がいい」 「くっそ、殺せねぇ~~~!!」  1ミリしか無かった体力を走りながらぐんぐん回復させる。チーターはヤカモレさんとzh@が攻撃していた人類の方、俺がダウンさせた奴に向かっていた。蘇生させるつもりだ。またフルパで来る。

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