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10:決戦
zh@が指定したエリアは、でっかいクレーンの横にコンクリートの足場が途中まで組まれた状態の建設現場みたいな場所だ。足場っつっても近未来設定、一番下の柱部分は高架下のようにがっちり作られている。これはもう3階建ての壁がない吹き抜けのビルだ。重力を操れる俺のキャラはジャンプして3階まで一気に上れる。目の前で銃撃の軌道の線が何本も飛んでる。zh@のお望みどおり、乱戦地帯だった。
近距離、撃ち合い、乱戦。俺の大得意。
「やばいやばいやばいやばいやばい!」
ヤカモレさんも飛んで上に来ようとしたが、どっかの敵チームがキャラの固有能力の空爆を落としてきた。空から何発も爆弾が落ちてくる。派手な爆発音が何度も響き、視界が塞がれる。
「ガチでやばい! 下入るわ!」
「おっけ!」
俺は屋根がある部分に転がり込んだが、ヤカモレさんは高架下に逃げ込んだ。zh@も下だ。電磁波が飛んでスキャンマップが共有される。
「何かいる!!」
ヤカモレさんが叫んで、アーマーが一瞬で割れた。肉ダメも半分以上入ってる。
「ブデル!?」
「違う、別のやつ!」
「まだ居んのかよ!?」
チーターがもう一人居るらしい。俺は目の前でやりあってる敵2人の片方を背後から漁夫って落とす。その後、もう片方が柱に隠れた隙に下に降りた。ヤカモレさんを助けに行こうとするが、目の前に敵が居ていけない。撃ち合う。スキャンマップ共有されてたのに敵の目の前に降りちまった、またzh@に怒られる。いいや、勝てばいい。気合で勝ち取って確キルまで入れて高架下に入る。
ビーッビーッと警告音。
「パルス来るぞ!」
「射線入りたくねぇ~!!」
ヤカモレさんが駄々をこねてもパルスは迫ってくる。高架下は全部パルスで覆われる勢いだ。
「ヤカモレさん、ここパルス入ってない!」
zh@の状況判断はいつも早い。何とか柱一本だけパルスを免れた。俺が撃ち合っていたやつをヤカモレさんが背後から撃ってキルし、俺も高架下に潜る。他の敵チームは全員外に出たが俺らは高架下に入ったまま、これで上からの攻撃を塞いで柱を遮蔽物に出来る。zh@がスキャンを飛ばす。
「横いる!」
パルスに守られていたはずの斜め後ろからヤカモレさんが狙撃された。パルスダメージ覚悟で撃ちやがった。一撃でダウンする。電気がバリバリ、ヤカモレさんが立っていた場所を侵食する。
チャージライフル。
「あんの野郎……!」
今日よく見るブデルがパルスから出てきた。すぐに連射してダメージを入れるが、岩陰に隠れて大した数字が出ない。
「ぜっとさんあと何人!?」
「5!」
いつもだったらマップ見て自分で数えろって言われるところをzh@は素直に教えてくれた。敵はあと3チーム5人。俺が外に出てzh@が援護すればそこそこ戦える。
「あのブデルだけはぜってぇ殺す!」
他のチームももう味方の蘇生を諦めていた。蘇生してる内に自分が殺されかねないからだ。乱戦、特攻、インファイト。試合終盤で力押しでやりきろうって場面だ。俺もそれであのブデルだけでも殺してやると思って高架下から出たら、
「――ヤカモレさん、蘇生する!」
zh@が叫んだ。あの判断が早いzh@が一瞬溜めて何か考えて、こっちに向かってやってくる敵に銃を向けながら、ダウンしてるヤカモレさんを柱の影に押し込んだ。
いや、蘇生する余裕なんてねぇよ。
俺はそう言って突っ込んで行きたかったが、zh@がやけに強く宣言したから、踏み止まった。いつものzh@は戦況不利になるようなことは絶対しない。でもこれは、例え負けるかもしれなくても、やらなきゃいけないと思ったからやるんだ。なんで。何の意味がある。
――ああ、そうか。計算したのか。さすがエリート様は頭が良い。
足りないんだろ、ヤカモレさんのランクポイント。
――このままじゃマスターに届かない。
考え事をしていたら敵に打ち込まれて、高架下に転がり込む。隣のzh@に確かめた。
「あとどんくらいで上がれんの!?」
「1キル! それとV!」
1人殺して最後まで生き残れってか。
敵チームで俺らが確認したチーターは2人、どちらも生きてる。絶望的過ぎて思わず笑いが出た。ヤカモレさんは俺らの会話に口を挟まず、何も言わない。うん。言わなくていいよ。
「分かった」
例え頼まれなくても、ヤカモレさんがマスターに上がらないと俺らは意味がない。
高架下から飛び出した。柱に向かって左側はzh@が顔を出して応戦していた。だから誰もいない右側から走って近くの岩陰に移動する。zh@がスキャンを飛ばしてマップを更新し、周りの敵の配置を俺に知らせる。
「行かせねぇから」
この岩が前線だ。ここから先へは進ませない。
「ぜっとさん、蘇生して!」
ずっと高架下を狙ってる敵は人だ。チーターじゃない。幸いなことにチーターはチーター同士潰し合いをしていた。zh@から攻撃を引き継いでアサルトライフルを連射する。ヤカモレさんのキャラに救援マークがついた。蘇生中だ。邪魔させねぇ、絶対に。何発か入れてると敵がすぐ遮蔽物に隠れたから、俺も岩陰の反対側に顔を出して他の敵が来てないか見る。ちょうど別キャラが俺の岩陰に回り込んできて脇から打ち込もうとしていた。いいね、近距離ファイト。得意だ。
「1人やった」
ショットガン打ち込んでダウンさせた。確キル入れる前にもう一度逆側、zh@の方に顔を出す。また遮蔽物から出て高架下に狙いを定め、動けない二人をやろうとしてる敵に横から連射する。
「割った!」
ほら、アーマー割ったぞ! 俺の方に来い! 蘇生の邪魔すんな!
「21、17!」
俺のヘボいエイムじゃ小ダメージしか与えられない。こういった前線維持は本来ならヤカモレさんの方が得意だ。いつも突っこんでいって一か八か前線を押し上げようとしかしない俺の腕じゃこれが限界だ。
「13、0、24!」
0ダメなんて笑える。報告するのも恥ずかしい。でもzh@は蘇生作業を中断しない。すぐ近くまで敵が来てんのに、俺が何とかするって信じてる。
「12!」
ようやく俺に向かって敵が撃ち返してきたから岩に隠れる。よし、そうだ、俺の方に来い。蘇生の邪魔すんな。ようやく釣れた敵の相手をしようともう一度顔を出しかけて、目が合った。
――ブデル。
「今かよ!!」
因縁のチーターがまだ生きてやがる。
1対2だ。応援は望めない。逃げることもできない。多分俺は死ぬ。高架下を狙う人か、他のチーターとやりあってアーマーが割れた状態のチーター、道連れにするならどっちかだ。どっちだ。正解が分かんねぇ。ヤカモレさんのステータスにはまだ蘇生中のマークがついてる。
「……クソが!」
間違えたら全滅だ。
――でも、分かんねぇけど、最初から決めてたことならある。
「お前だけは俺が殺すんだよ!!」
チャージライフルを構えるブデルの前に飛び出してブラックホールを展開する。俺に引き寄せられ、ブデルのADSが強制キャンセルされる。隙だらけだ。ゼロ距離射撃でショットガンをバンバンぶっ放した。相手がダウンしてもそのまま撃ち続ける。
「おらぁっ!」
確キルだ。もう起き上がって来ない。それと同時に俺も後ろから狙撃されて落ちる。俺はここまでだ。もし判断が間違ってたらzh@にまた叱られると思いながら報告する。
「ブデルやったぞ!」
「「ナイス!!」」
揃った称賛の声が聞こえて、思わずにやけた。
起き上がったヤカモレさんが高架下から出て俺を狙撃したやつをキルした。ノルマの1キルだ。残り2人。
「家の中入った!」
ダウンしてても画面を見て戦況報告は出来る。チーターに追いかけられて敵チームの人が家の中に逃げ込んだのが見えた。追いかけるチーターは、家の中ではなくヤカモレさんとzh@に狙いを変える。
「あ~! こいつやばい!」
早速ヤカモレさんのアーマーが割れた。zh@がすかさず前に出る。スナイパーライフルだ。この近距離でそれ構えてんの、お前だけだよ。
「122」
チーターのアーマーが割れた。すぐにもう一発。
「168」
何で当たるんだよ。
「グレネード投げる!」
ヤカモレさんが家の中に向かって延焼型の手榴弾を投げる。すぐに中が燃えて、逃げ込んだ人が外に出てきた。ヤカモレさんが撃ち合ってダウンさせる。確キル入れてる間にチーターに撃ち返されたzh@が落ちた。1対1。
もう一撃で倒せる。
「ヤカモレさん、ラスト!」
「あと1人!」
声を上げてるうちに警告音がして俺の体をパルスが覆った。赤褐色に視界が焼かれ、熱気が揺れてピントがずれる。パルスはどんどん辺りを侵食していき、家の前に居る2人だけを残した。ヤカモレさんとチーターだけの試合リングが出来上がる。
すげぇな。おあつらえの舞台みたいだ。
「おらぁっ!!」
ショットガンが撃たれた。
――VICTORY。
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