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11:マスター!
「よっしゃああああああ!!」
「ナイス!」
「まじかよ! まじか!!」
勝てると思わなかった。俺と同じように興奮を『おおおおおおお』とか『やったあああああ』とかIQ3の雄叫びでコメント欄が溢れ返る。VICTORYの文字が出てんのに信じられないみたいでヤカモレさんは「まじか!」を繰り返してる。
「え、これは!? これは!?」
「上がった! ぜってぇ上がった!」
ヤカモレさんのランクポイントを計算していたzh@に上がれるか聞いたら保証してくれた。戦績表示のあとに流れる昇格エフェクトが待ち切れず、早く飛ばしたくてマウス連打してしまう。ヤカモレさんのランクアイコンが光り、コインの裏側みたいなのが上から張り付く。それがゆっくりと裏返り――マスターアイコンになる。
「やったああ! おめでとう!」
「おめでとう!」
「ありがとう、まじで、ありがとう、あ~~~~~!」
ヤカモレさんの配信画面を見る。顔を両手で覆って天井に向けていた。そのまま両手の拳を上に伸ばす。
「終わったあああ!!」
「終わった! 終わったよ! シーズン卒業!!」
「やったああああ」
興奮がおさまらない。「やったあ!」「終わった」「卒業だ」をヤカモレさんと2人で繰り返していたらzh@もいちいち「おめでとう」を返してくれた。
「いや本当にありがとう、まじで、2人のおかげだよ、ありがとう」
「いや全然! もう、ほんと……」
一通り喜びを叫び尽くして脱力感に包まれる。ありがとうを繰り返すヤカモレさんに俺もありがとうって言いたい。でもそれすら出てこなくなって絞り出した言葉が「大変だったあ」だった。ヤカモレさんが笑う。
「あはは、ほんとほんと。大変だった」
「何回諦めかけたか分かんねーや」
「いやそうだよ。俺ら無理だと思ったもん。ぜっとさんが来てくれないとさあ」
おめでとうを繰り返すだけのbotになったzh@にヤカモレさんが話を振る。ただ1人ダイヤアイコンの最強の助っ人は返事をせず、チャットアプリで画面を見ると顔を両手で覆って机に肘をついていた。しばらく反応を待っていると、沈黙に耐えきれなくなったのか「……あ~……くそ」と唸った。鼻をすする音が聞こえる。
「……え!? ぜっとさん、泣いてる!?」
「ふはっ、まじか、あはは、ぜっとさん、あははははは!!」
あのzh@が泣いてる。いつも冷静でクレバーで判断を違わず俺をたしなめるzh@が。面白いというよりも衝撃でめちゃくちゃ笑えた。笑い過ぎて涙出る。本人は「うるせぇ、寝不足だ」って低い声で言ったけど、それも涙声だ。
そうだよな。zh@は毎日仕事から帰ってきて、配信もしないのに、ずっとゲームしてた。寝る暇なんてきっと無かった。
俺とヤカモレさんのために、ずっと練習してた。
「え~、ちょっとおじいちゃ~ん、夕方のおくすりちゃんと飲んだぁ?」
「うるせぇ、ジジイ扱いすんな」
「え~~~~、ちょっと待って、ぜっとさんに泣かれたらさあ」
懐かしのジジイネタで俺がzh@をいじっていたら、今度はヤカモレさんが決壊した。
「ちょっ、泣くって、ほんっと……あ~~~!」
「あははははは!」
年上2人が泣いちゃったよ。どうすりゃいいんだこれ。笑うしか出来ねぇよ。
配信画面のヤカモレさんがティッシュを何枚か引き出して、自分の顔に当てる。
「もっとなんか、ウェーイみたいな感じにしたかったのに、あ~~~」
「あはは、いやなんかさあ、もう……つらかったじゃん」
「いやそう、つらかった。この3人じゃなきゃ……」
静かに堪えるように泣いたzh@に比べてヤカモレさんはグズグズだ。元々感情豊かな優しい人だ。俺でもうっすら涙浮かべて感動してんのに、この人はもっとだ。
「ほんと良かった……」
心底ほっとした気持ちが声に漏れ出る。
「俺がマキちゃんランクマ誘って、仕事してるぜっとさんまで巻き込んで、これで上がれないってなったらどうしようって」
「そんなこと考えてたのぉ!? 全然いいのに!」
「気にしなくていい」
先に立ち直って顔を上げたzh@がヤカモレさんを慰める。薄く笑ってる顔は、満足気だ。
「楽しかった」
その一言が全てだった。
zh@が言ったその一言が、3人全員の共通認識でこれ以上ないぐらい今回のランクマッチを表していた。
「うん。楽しかった」
俺も言葉を重ねる。
「ヤカモレさん燃え尽きないでよ~~~、俺、まだまだゲームやりたいんだけどぉ?」
「やるよぉ、俺もやりたい」
「だろぉ!? ……だからさあ」
俺はニヤリと笑う。画面越しでzh@の顔を覗き込んだ。ただ1人、ダイヤアイコンの俺らのスナイパーに。
「ぜっとさんはスコアあとどのくらい?」
「ふざけんなやらねぇぞ俺はいい寝かせろ」
「あはははは!」
ノンブレスでマスター行きを拒否られた。全力過ぎる。俺とヤカモレさんが笑う。
マスターアイコン2人とダイヤアイコン1人。揃ってないチグハグだけど、記念に残したくてその画面をスマホで写真におさめた。
次の日、てか今日だけど、仕事があるzh@をそろそろ解放しなくてはとヤカモレさんとゲームサーバーを閉じた。配信が本業の俺らはこれから更にまた二次会だ。今日はオールでゲームして朝になったらzh@にモーニングコールしようって話していた。何にも考えなくて出来る簡単なミニゲームをヤカモレさんとしていると、コメント欄にURLが貼られた。配信動画を切り抜いたクリップだ。
『マキちゃん絶対見て』
一緒にそんなコメントが送られてくる。誰の配信だろうと思ったらzh@だ。zh@は俺らの配信に入ってるときだけ、スナイパーの俯瞰的視点を見たいリスナーのために顔無しで配信してる。だから「見て」と言われても一緒にゲームしてるから内容知ってるはずなんだけど。
……でも絶対って言われてるし、他のリスナーにも『教官まじか』『ぜっとさんwww』って何かコメントされてる。何だよ。気になるじゃん。ヤカモレさんがトイレに行くって席を立ったタイミングで、チャットアプリをミュートにしてクリップを再生した。
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