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第12話
『颯さん。連絡ありがとうございます。探してたんです。それ、俺のマンションの鍵です。紛失したらすべてのデータを書き換えなきゃいけないところでした』
諒大からの返信が届いて、諒大が喜んでいる様子がわかり、颯は胸を撫で下ろす。
やってしまった。
結局、颯は諒大にメッセージを送ってしまった。
『実家にスペアキーを預けていたので、あれから実家に取りに行って、やっとマンションに入れたんですよ』
あぁ……すぐに連絡してあげれば、諒大はそんな無駄足を踏むことなく家に帰れたのにと申し訳なく思う。
『もっと早く見つけられたらよかったですよね。本当にごめんなさい』
『いいえ。颯さんのせいではなく、失くした俺の責任です。連絡もらえて俺はとっても嬉しいです』
諒大は颯を責めることをしない。付き合っていたときも、ポンコツな颯を責めたことなど一度もなかったな、と未来のことなのに、昔を懐かしむように思い出した。
『俺は今から寝るところ。颯さんは?』
今は夜の十二時で、颯も今は布団の中だ。三月だというのに今日は真冬並みに寒い日だから、ペラペラの布団だけでは足りずにパジャマの上からフリースを着込んでいる。暖房費がかさむからエアコンは使わない。
『僕もです。今から寝るところです』
メッセージを無視できず、ついつい返信してしまう。すると即座に『同じですね』と諒大から返信が返ってくる。
『声が聞きたい。おやすみだけでもいいんです。電話しちゃダメですか?』
颯は答えに困窮する。諒大との連絡は、落とし物があるという連絡だけにしようと思っていたのに。
『わかりました。わがまま言ってごめんなさい』
颯の返信がなかったから、諒大から謝られてしまった。
『じゃあ声、送ってください』
そのメッセージのあと、諒大からボイスメッセージが送られてきた。その再生ボタンを押すと、『颯さん、おやすみなさい』と短いボイスメッセージが流れた。
「諒大さんの声だ……!」
思わず顔がにやけてしまう。
これはすごくいい。メッセージをタップするだけでいつでも諒大の声が聞ける。何度も連続でタップするとスマホは『颯さん』『颯さん、おやすみなさい』と何度でもメッセージを繰り返してくれる。これなら諒大の声が聞き放題だ。
『颯さんも。お願いします。嫌、ですか?』
颯は躊躇する。声を送るなんてやったことがないし、すごく恥ずかしい。
でも、諒大には送ってもらったし、ひと言くらいならと思い直す。
「諒大さん、おやすみなさい」
初めてボイスメッセージ機能を使って送ってみる。
少しすると、『ありがとうございます。とても嬉しいです』と諒大からメッセージが届いた。
『何回も聞いちゃうな』
諒大のメッセージに思わず『僕もです』と言いかけて寸前で止まる。
危ない、危ない。もう少しで諒大に気があるようなメッセージを送ってしまいそうだった。
『また颯さんに会いたいです』
なんて恐ろしい人だ。こういうことをさらっと言ってしまうところに、颯の心が乱されるというのに。
諒大とのメッセージのやり取りが終わってからも、颯は『颯さん、おやすみなさい』という諒大のボイスメッセージを何度も何度も再生させていた。
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