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第24話
『颯さん……』
「ど、どうしたんですか? 諒大さん?」
電話越しの諒大の様子に違和感を覚える。もう一度「諒大さん?」と呼びかけても返事がない。
「諒大さん?」
『あぁ……遅くまでごめんなさい。俺、明日朝から大事な会議だった。じゃあ、おやすみなさい、颯さん』
よかった。普通に返事が返ってきた。少し電波が悪かっただけかもしれない。
「あっ、おっ、おやすみ、なさい……」
諒大との通話が終わった途端、颯はいつもどおりのひとりぼっちになる。
古いアパートの六畳間。ひとりきりの部屋。
急にこの世界においてけぼりにされたみたいな気持ちになり、この寂しい空気感が嫌で、颯は布団に潜り込んだ。
布団に入って考えるのも、いつも諒大のことばかり。
(明日、大切な仕事なのに会いに来てくれたんだ……)
巻き戻り前の諒大もそうだった。
忙しい中、時間を作って颯に会いに来てくれた。颯が「仕事なら無理して会いに来なくていです」と言っても、「俺が会いたいんです」と言ってくれて何度も何度も会いに来た。
巻き戻ったあとも同じ。諒大の誠実そうに見える態度は変わらない。
(あのとき、オジサンが泥棒って騒がなかったら、諒大さんとキス、してたのかな……)
恋愛経験値ゼロの颯だが、巻き戻り前の諒大とのお付き合いのおかげで少しだけわかる。
あの流れは、完全にキスの流れだった。わかっていたのに颯は逃げられなかった。
別に諒大に押さえつけられてるわけでもなく、窓枠越しで顔を合わせているだけだったのだから、避けようと思えばいくらでも避けることができた。
頭では諒大とそんなことをしちゃいけないと思っていた。なのに、身体が言うことを聞かなかった。
諒大を受け入れようとしたのだ。この卑しいオメガの身体は、諒大から逃げようとしなかった。
(巻き戻り前みたいに、諒大さんと思う存分キスしたいな……)
1回目のドライブデートで告白されて恋人になってからは、会うたびに諒大とキスをした。諒大は一緒にいると、やたらとキスをしてくるので、颯からキスをせがむ必要はなし。恥ずかしくなってやめてと言いたくなるくらい諒大と仲良ししていた。
キスをされるたびに、諒大に愛されてるんだと思えた。
もしかしたらあのときの諒大は、佐江とキスをしたあと、颯ともしていたかもしれないのに。
(僕とするのは、悪いこと、って言ってたよね……)
さっきの電話の「俺にもやましい気持ちがあった」「悪いことはできない」とはどういう意味だったのだろう。
佐江という人がありながら、運命の番に惹かれてしまう、諒大の揺れる気持ちがあったのだろうか。
「はぁ……」
元気の出ないとき、いつも聞いているのは、スマホにある諒大からのボイスメッセージだ。颯は慣れた手つきでいつものボイスメッセージを再生する。
『颯さん、おやすみなさい』
何回も何回も再生しながら、きっとこんなに何度も聞かれているなんて、諒大としては気持ち悪くて嫌だろうなと思う。
颯は布団の中にあった諒大のジャケットを抱きしめる。諒大のジャケットの匂いを嗅いだだけで気持ちが安らかになっていく。
(これなら眠れそう……)
颯はひとりきりの部屋で、諒大のジャケットを抱きしめながら大きく匂いを吸い込んで、ため息をつくように息を吐いた。
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