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第27話

 飲み会は、宴もたけなわに盛り上がりを見せている。創作料理なだけあって、肉寿司やキャビアがのったちらし寿司など、今まで食べたことのない高級そうなものばかり。どれも食べてみたくなって、颯は遠慮なくモリモリと食べまくる。  掘りごたつになっている座敷席の端っこで食事を堪能しながら、颯が遠くから眺めるのは諒大の姿だ。諒大の近くに座った人は、みんな諒大の話に耳を傾けている。 「西宮室長! 本当ですかっ?」 「はい。食器を割って罰金だなんてそんな慣例はおかしいと思います。社内調査してすぐにやめさせます」  諒大は宴会調理課のみんなの話に丁寧に対応している。 「室長、有給休暇についてなんですけど、代わりの人を見つけないと休めないのってなんとかなりませんか?」 「どういうことだろう。詳しく話してもらえます?」  みんなはここぞとばかりに諒大に頼み事や日頃の不満を相談している。それというのも諒大が優しすぎるからだ。ひとりひとりの話にメモを取ったりしながら、真摯に向き合ってくれる。そんな様子を見たら、諒大に伝えるだけ伝えてみようと相談したくなるだろう。 「西宮室長は、飲み会に参加しても彼女さんには怒られないんですか?」  ベーカリー担当の女の子たちが諒大に迫る。  悩み相談の次は、諒大のプライベートの話。そんなこと聞かれたくもないだろうに、諒大は「彼女はいませんよ」と笑顔で対応する。  案の定、諒大の「彼女いない」発言に女の子たちは目を輝かせた。 「じゃあ、どんな人が好みなんですかっ? やっぱりアルファだからオメガが好きなんですか?」 「バース性を考えて好きになるわけじゃないな……」 「ベータもアリですかっ?」  ベーカリー担当の女の子たちにぐいぐい質問されている諒大は、チラッと颯に視線を向けてきた。  かなり距離があるからこっちを見ているというのは勘違いかもしれない。それでも颯は諒大から視線をそらした。諒大のことばかり見ていたのがバレたら恥ずかしいからだ。 「俺が好きになった人が、ベータだったとしても、嫌いになることはないですね」 「えーっ、じゃあベータもアリなんですね!」 「はい」  諒大が頷くと、きゃあきゃあ盛り上がっている。諒大はまるでアイドル状態だ。 (なんであんなこと言うんだよ……ベータでもアリなんて言ったらみんな諒大さんを狙うに決まってるのに。嘘でもいいからベータは嫌いって言ってよ!) 「……せさんっ、七瀬さんってば!」 「えっ! あっ! 岸屋くんっ! ごめん……」  諒大のことばかり気にかけていて、岸屋に気づくのが遅くなってしまった。 「はぁ、もう、七瀬さんて隙だらけですね。そんなにボーッとしてたら後ろから抱きつかれちゃいますよ」 「えっ……! ないないっ!」  急にそんなことを言われて焦ってしまい、顔が熱くなる。 「ねぇ、七瀬さんは? ベータもアリですか? アルファ以外はお断り?」  岸屋は赤い顔をしている。この店はワインが美味しいから結構飲んでいるのかもしれない。 「僕が、選ぶような立場じゃないから……」 「それって七瀬さんを誘えば、誰とでも付き合ってくれるってことですか?」 「あっ、そ、そんなこともなくて……怖い人は嫌だよ? もちろん……」 「俺は? 七瀬さんにとって怖い人ですか?」 「ううん、岸屋くんは怖くないよ」 「マジですか……俺、オメガと付き合ったことないんですよね……」 「そ、そうなんだ。オメガはいろいろ面倒くさいもんね」  できるならベータはベータを選びたいだろう。オメガはヒートがあるからいろいろと面倒だ。 「七瀬さん、今日めっちゃご飯食べてますね」 「あっ、そのっ、えっと……はい……」  こっそり食べてたつもりなのに、岸屋にバレていたことが恥ずかしくて颯は両手で顔を覆う。 「あっは、七瀬さんて見かけによらず食いしん坊ですね」 「それ以上言わないでっ」  食い意地が張っているのは認める。だって食べることは、颯の人生の数少ない楽しみのひとつだ。でもそれをはっきり指摘されると、居た堪れない気持ちになる。 「ごめんなさい。あ、そうだ! 食べることが好きなら、今度俺とふたりで食事に行きません? この前テレビで見たカフェのハンバーガーがめっちゃ映えるんですよ、今リンク送ります」  岸屋がSNSで送ってきたリンクをスマホで見る。ハンバーガーのバンズ部分がクマの形をしていて可愛らしい。バーガーの横にクマの形をしたベビーカステラまで付いている。SNSでは、このカステラクマちゃんを友達とくっつけて並べてみたり、バンズの上に載せてみたりと遊んで写真を撮るのが流行ってるらしい。 「おいしそう……」 「でしょ? 七瀬さん今度アルバイトない日、いつですか?」 「四月二十五日だったかな」 「あ! 俺もその日空いてます!」 「えっとね……待って、確認する……」  颯が予定を確認するためスマホをいじっていると、突然、誰かに身体を押された。 「岸屋くん。少し俺と話そうか」  岸屋と颯のあいだに割り込んできたのは諒大だ。みんなに矢継ぎ早に話しかけられていたのに、どうやってあの包囲網をかいくぐってここまできたのだろう。

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