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第28話
「西宮室長っ? い、いやっ、畏れ多くて……」
「話があるのは俺のほうだ。君は次、大学四年になるんだよね? 就活は?」
「は、はぁ……もちろん就活してます。でもバイトもしないとお金足りないですし」
「そう。じゃあエントリーする会社のひとつにうちの会社も考えてみたらどうかな。俺が君の後ろ盾になるから」
「え! 室長がっ? それって採用決定待ったなしの状態じゃないですか!」
颯も岸屋に同意だ。次期社長の諒大がバックについていて、カナハリゾートの採用に落ちるとは到底思えない。
「四月二十五日に一次面接あるけど、空いてる? 今からエントリー、どうだろう? やる気があるなら担当者に話をつけておくよ」
「マジですか。俺、大学で建築やってて、リゾート開発に興味があるんです。カナハなら世界展開してますものね……」
「リゾート企画は、俺の担当している仕事だよ」
「そっか、リゾート計画を総括してるのが西宮室長ですものね……室長すごいな……」
諒大は生粋のエリート御曹司だ。二十六歳にして、自分よりひと回りもふた回りも歳上の部下を大勢引き連れている。その事実を改めて思い知らされた。
「七瀬さん、すいません。四月二十五日、面接行ってもいいですか……?」
岸屋が申し訳なさそうな顔をする。さっきの一緒に食事に行く約束のことを気にしているのだろう。
「い、いいに決まってるよ、就活のほうが何倍も大切なんだからっ」
颯が岸屋が気にかけないように言うと、諒大が「そうだ!」と今思いついた様子で声を上げた。
「颯さん。そのお店、俺と一緒に行きましょう。そうすれば岸屋くんも面接を受けられるし颯さんもおいしいハンバーガー食べられますよ」
「えっ? 僕と室長で……?」
なんか話の展開がおかしいな、と思う。
ハンバーガー屋は逃げない。最初は岸屋と行こうとしていたのだから、岸屋とまた別日に行けばいいだけのことなのに。
「あ! この店、予約したほうが良さそうだな。颯さん十一時からでもいいですか?」
「えっ? えっ?」
「二名ならいける。他は全部バツだ。とりあえず予約します。岸屋くん。君の代打は俺でいいかな?」
「あ……はい。なんか、えっ?」
戸惑う岸屋と颯をよそに、諒大は強引に「じゃあ俺が責任を持って、岸屋くんの面接の話と、岸屋くんの代理として颯さんのお腹を満たす役割を果たします」と話をまとめ始めた。
「颯さん、楽しみですね!」
にっこり微笑まれても困る。しかも諒大が颯さん颯さんと名前を連呼するから、みんなが不審な目で見ている。
(はぁ……どうしてこうなっちゃうんだろう……)
諒大と、映え映えハンバーガーをふたりで食べに行ったら、楽しいに決まっている。
きっと諒大は気遣ってくれるから、会話も弾むだろうし、諒大は優しいから颯のことを一番に考えてくれるだろう。
そんな思い出を作ってしまったら、諒大から離れがたくなるに違いない。
諒大のことは、早く忘れてしまいたいのに。
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