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第34話

 諒大と入ったカフェは、新しくできたばかりのカフェだ。  ハワイアンリゾートをイメージしたような店内の他、オープンスペースにも席があり、ショッピングや遊び目当ての人も入りやすい雰囲気がある。そもそも本社ビル自体がショッピングモールに併設しているので、階下はコンビニや飲食店などが軒を連ねているのだ。  店内奥の席につき、颯がメニューと睨めっこしながら何を頼もうか迷っていると「何と何で迷ってるんですか?」と諒大が声をかけてきた。 「この、ロコモコボウルか、盛り盛りフルーツのリコッタパンケーキかどっちにしようかなって……」 「じゃあ両方頼みましょう」 「む、無理です、こんなにたくさん食べられないから……」 「俺とシェアしましょう。そうしたら両方食べられますよ? そのふたつでいいですか?」 「え……? 諒大さんはそれでいいの?」 「はい。俺は颯さんが好きなものを一緒に食べたいです」  諒大はちょうどやってきたホールスタッフに「注文いいですか?」とスマートに注文を済ませる。  やがて料理が運ばれてきてからも、「好き嫌いはありませんか?」と聞きながら颯のぶんを綺麗に取り分けてくれる。   颯は、目の前にあるロコモコのハンバーグをひと口食べる。  上にかかっている、なんかわからない茶色いソースもめちゃくちゃおいしいし、ハンバーグもジューシーで柔らかくて最高の味だ。 「うわぁ、おいしいです!」  お腹が空いていたし、颯はモリモリ食べる。パンケーキもフワッフワで美味しいし、生クリームもフルーツも最高のハーモニーだ。  すっかり食べ物に夢中になっていたとき、ふと視線を感じてハッとした。 (そうだ! 諒大さんがいたんだった)  目の前に人がいるのに、ご飯ばっかり食べているのはいけないことだ。もっと気の利いた会話でもしながら過ごさないといけないのに、おいしすぎてろくに会話もしないで無言で食べまくってしまった。 「颯さん可愛い」  諒大は微笑みながら「ここに生クリームがついてますよ」と颯の口元を紙ナプキンで拭いてくれる。 「あ……ご、ごめんなさい。つ、つまらないですよね、僕といても……」  颯は、こういう何気ない場面で、ちょっとした小話をするのが苦手だ。最近あった面白い出来事も特にないし、これといった趣味もない。人とどんな会話をすればいいのか、よくわからない。 「いいえ。可愛くて、今すぐ抱きしめたくなります」 「えっ!」 「奢る身としては、そんなにおいしそうに食べてくれたらとても嬉しいです。奢ってよかった。また奢りたいって思います」 「あ、はは……」  食い意地が張っていることを褒められるとは思いもしなかった。 「颯さん、昨日の夜のことなんですが……」 「夜ぅっ!?」  昨日の夜というと、諒大のマンションの寝室での出来事のことを指すのだろうか。 「俺、颯さんに何かしましたか……?」  諒大は不安げな顔で颯の反応を伺っている。 「な、何かと言いますと……」 「すみません。あの日、俺はかなり酔ってしまって途中から記憶があやふやなんです。猪戸と颯さんに車に乗せられて、運ばれたことはうっすら記憶があるのですが、その後を覚えてなくて……」 (よかった! 諒大さん、覚えてなかった!)  颯は内心、飛び上がるほど喜んでいる。  あの日、颯が諒大にキスしたことを諒大にバレたら大変なことになる。  颯が諒大に惹かれていることは知られてはいけない。この気持ちだけは、諒大にだけは秘密にしておかなければならない。 「な、なんにもありませんでしたよ。僕は諒大さんを寝かせてから、すぐに帰りましたし」 「本当ですか? ベッドで寝ていたときに、誰か、いたような気がして……夢、だったのかな……」  首をかしげる諒大。あまり深く考えて思い出されても困るので、颯は「こっ、これもおいしいですね、パンケーキふわふわです!」と無理矢理、話題を変える。 「ええ……おいしいですね。颯さんと食べると特においしいです」 「そ、そうですか……あ、りがとうございます……」  食べているさまを諒大にじっと見られて、なんだかすごく恥ずかしくなる。

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