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第42話

「ごめん、なさい……」  ヒートなんてこの世からなくなってしまえばいいのに。ヒートこそオメガという性の悪の根源だ。  こんなの嫌だと思うのに、身体が敏感になり、下半身は熱を持っていく。この本能は自分では抑えきれない。 「颯さんは何も悪いことはしてませんよ。財布は使い込んでいて、そろそろ買い替えようかと思っていたものでした。社員証は再発行すればいいだけのこと。あいつらが俺の金を持っていったのなら好都合。捕まえやすい窃盗罪で逮捕できます」  諒大はいつだって優しい。ポンコツな颯を責めるようなことはしない。  これは、巻き戻り前からずっとそうだった。人に怒られることが極端に苦手な颯は、声を荒げて責めることのない諒大のそばにいると、すごく安らぐことができた。 「あの角を曲がればマンションに着きます」  諒大の言うとおり、ほどなくして諒大の住むマンションに到着した。駐車場に着いてエンジンを切るなり、諒大は助手席のドアを外側から開けて颯の身体を抱き抱えてくれる。  ヒートの熱で意識が朦朧とする中、颯が連れてこられたのは諒大の寝室だった。大きなベッドに寝かされ、布団をかけられたとき、ふわっといい匂いがした。 (諒大さんの匂い……たまらない……)  匂いを感じただけで、颯の腰は淫らに揺れる。諒大を感じると身体がビクビクと反応を示していく。 「はぁっ……はぁっ……あ、りがとうございます、あとは、ひとりで……早く離れて諒大さん……」  諒大はアルファだ。アルファがオメガのヒートのときに近くにいたら、その結末は誰にだって想像できる。 「何言ってるんですか。手伝います。颯さん」 「えっ?」  手伝うとは、なにをどう手伝うという意味なのだろう。まさか颯のヒートのお世話のこと、なのだろうか。 「大丈夫ですよ。あなたが気持ちいいことだけしかしません」  諒大がスーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩め始めた。 「だめ……諒大さん……」 「心配しないでください。これを理由に交際を迫ったりもしません。ただオメガの欲を発散させるだけです」  諒大はワイシャツのボタンを外しながら颯に近づいてくる。乱れたワイシャツの隙間から、諒大の引き締まった腹筋が見え、颯はドキッとする。 「こんな状態の颯さんをひとりで放っておけるはずがない。アルファがいれば楽になるでしょう?」  諒大はワイシャツを脱ぎ捨て、上半身裸の状態で颯のいるベッドにギシリと乗りかかってきた。  ひとりきりでヒートを乗り越えるのは本当に地獄だ。でもそこにアルファがいてくれれば、まるで天国のように楽になる。  颯の場合、相手は諒大じゃなきゃダメだ。颯がこの身体に触れて欲しいと思うのも諒大だけ。好きだと思うのも諒大だけ。諒大以外のアルファはいらない。 (苦しい……助けてほしい……)  諒大がほしい。ほしくて、ほしくてたまらない。  こんなことはしちゃいけないと頭ではわかっているのに、我慢ができない。  諒大に、この身体をめちゃくちゃにしてほしい。いっぱい、いっぱい愛されたい。 「諒大さん……」  颯は諒大に震える手を伸ばす。  これは愛の行為じゃない。  ヒートを起こしてしまったオメガの生理現象を、諒大が収めてくれるだけ。行為が終わっても、ふたりの関係は他人のまま、何も変わらない。 「うなじ……噛まない……?」  諒大にうなじを噛まれたら終わりだ。こんなに一生懸命逃げてきたのに、番になったら諒大と離れて生きていけなくなる。  それさえなければ、この行為は今、このとき限りのものになる。  だったら。  ひとときの過ちだと思えば。 「噛みません。絶対に噛まない。だから安心して俺に身体を委ねてください。楽にしてあげます」  諒大が布団の中に潜り込んできて、颯の身体を背後から抱きしめてきた。  その刺激だけでブワッと身体からフェロモンが発せられる。自分でもわかるくらいの大量のフェロモンが出てしまい、颯は慌てる。これでは颯が諒大を求めていることがバレバレだ。 「はぁっ……すごい……颯さんっ……」  オメガのフェロモンのせいで諒大も身悶えているが、颯も同じだ。諒大のフェロモンを感じて身体が熱を帯びてくる。前はすっかり勃ち上がり、同時にオメガの後孔がじわりと濡れるのを感じた。 「諒大さん、どうしよう……シーツ、汚しちゃう……」  颯は下半身をモジモジしながら諒大に訴える。 「そんなことは気にしないで。でも、下は脱いだほうがいいですね。苦しいでしょう?」  諒大が颯のジーンズのボタンを外し、下着ごとずり下げ、颯の屹立に手を伸ばしてきた。

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