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第58話
「巻き戻る前の強引な諒大さんもかっこよかったけど、今の一生懸命に気持ちを伝えてくれる諒大さんはもっと好きです」
驚く諒大をよそに颯は言葉を続ける。
「僕は、婚約破棄されるのかと思って、巻き戻ったあとは、どうせ捨てられるなら諒大さんを好きにならないようにしようって思ったんです」
「婚約……破棄……」
「プロポーズをなかったことにしてくださいのあと、僕、眩暈がして何も聞こえなくなっちゃって……そのあと階段から落っこちちゃったから……」
諒大が「あぁ」とため息にも似た声を漏らした。
「それって俺のせい、ですね……」
「いいえ、違いますっ、僕のせいです」
颯は即座に否定する。
「諒大さんのせいじゃないです。だって、諒大さんがそんなことしない人だって、よく考えたらわかります。なのに、自分に自信がなくて、せっかく好きになってもらっても、いつか諒大さんは僕にガッカリするんだろうなって思ってて、諒大さんには僕は不釣り合いだって最初から諦めて……」
これは、諒大を信じなかった颯のせいだ。諒大が誠意をもって好きを伝えてくれているのに、どうせ僕なんてと逃げることばかり考えていた颯が悪い。
「でも、ダメでした。全然嫌いになれないんです。諒大さんのこと好きで好きでたまらなくて、諒大さんのこと全然諦められなくて、諒大さんがいないと寂しくて……」
颯は諒大から目をそらさない。
この気持ちを素直に認めてしまおう。これからは自分が幸せになる道を目指していきたい。
今なら、まだ間に合うかもしれない。颯の目の前には諒大がいる。
「あんなに逃げといて、今さらって思いますよね……でも、でも、諒大さんのことが好き。諒大さんとずっと一緒にいたい。頑張るから。いっぱい努力をして、僕が隣にいても諒大さんが恥ずかしくないようにするからっ」
諒大のために逃げるんじゃない。諒大のために努力をする。諒大だけはどうしても諦められない。
「だから、ぼ、僕と、付き合ってください……オ、オネガイシマス……」
颯は両手で顔を覆う。緊張しすぎて、言葉じりがポンコツロボットみたいになってしまったことが恥ずかしい。
人に本当の気持ちを伝えることが、こんなにドキドキするものだとは知らなかった。本心なんて表に出したことがないから。
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