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第59話

「嘘でしょ、待ってください。それ、俺が颯さんに言いたかったのに!」 「ごめんなさい……お付き合いしたいです……」 「颯さんっ。俺、もう嬉しくて……本気ですか?」 「何回も言うの恥ずかしいけど、ほ、本気です。諒大さんとお付き合い、したい……」  顔を覆ったままの颯の身体を、ふわっと温かい腕が包み込んできた。 「わっ!」  諒大がいきなり颯の身体を持ち上げてきて、運転席にいる諒大の膝の上に引き込まれた。颯は、諒大の膝の上に座って横抱きされているような格好だ。 「俺もお付き合いしたいです。颯さん」  諒大にぎゅっと抱きしめられる。 「いいの……? 僕、諒大さんにたくさんひどいことしちゃったのに……」 「ひどいことなんてひとつもないです。颯さんを追いかけているときも俺は楽しかったですし、そのときの颯さんのリアクションがいちいち可愛くて大好きでしたよ。巻き戻り前の颯さんも素敵でしたが、巻き戻ってから、さらにたくさんの颯さんの魅力を感じました」  諒大が話すたびに、諒大の喉の震えが伝わってくる。声を肌で感じられるくらい近くにいられることが嬉しい。 「そっ、か……よかった。そうですか……」  諒大から逃げるようなことをして、嫌われたかもしれないと思っていた。でも諒大の気持ちは離れていなかったことに安堵する。 「じゃあ、今から颯さんは俺の恋人ってことでいいですか?」  諒大が微笑みかけてくる。諒大のこの優しい眼差しが、颯は大好きだ。 「はっ、はい。諒大さんの恋人になりたいです……りょ、諒大さんも、今から僕の恋人ってことでいいですか……?」  諒大の恋人だなんておこがましいと思ってしまう。でも離れたくない。何を失っても、諒大だけは手放したくない。 「はい。俺は今から颯さんの恋人になります」  諒大の微笑み。それと同時に颯の腰を優しく抱く諒大の手。 「諒大さん……」  颯は諒大に身体を寄せる。諒大からは相変わらず質のいいフェロモンを感じる。  こんな素敵な人が恋人だなんて奇跡だ。  巻き戻ってみて初めて気がついた。運命の番は無理矢理、結ばれている相手じゃない。お互いがお互いを強烈に必要としている絆のことだ。  諒大のいない人生なんて考えられない。颯がこれから生きていくためには、絶対にこの人が必要だ。  それをオメガの身体が全身で颯に教えてくれる。一緒にいるだけで胸がドキドキして、離れると苦しくなって、諒大のフェロモンを感じて心地よくなって。  この人と番になるのが一番幸せだと、生まれたときからこの身体は知っていたのだ。 「颯さんが俺の恋人かぁ……ごめんなさい、ちょっと、俺、涙が……」  諒大が手で涙を拭っている。  逃げたり勘違いしたり、こんな面倒くさい颯を、諒大は泣くほど喜んで受け入れてくれるみたいだ。  そのことが嬉しくて、颯が諒大に抱きつくと、諒大はすぐに抱きしめる手に力を入れて、それに応えてくれる。 「あー! どうしよう、俺、幸せすぎます。ずっとこうしたかった。颯さんと抱き合いたかった……」  諒大に苦しくなるくらいにぎゅうぎゅう抱きしめられるが、嫌じゃない。  少し苦しいけど、諒大にキツく抱きしめてもらえることがとても嬉しい。諒大をすぐそばに感じる。生きてるって感じがする。 「颯さん。俺、全力であなたを幸せにします。今度こそあなたを失いたくない……ずっと一緒に生きていきたい」  颯が諒大を見上げると、諒大と目があった。颯の大好きな優しい眼差しで、諒大が見つめている。 「僕も。僕も諒大さんのこと幸せにできるよう頑張ります。だから、そばにいさせて……」  視線が絡み合うと、どちらともなく惹かれ合い、キスが始まった。  最初は軽いキスを交わしていたのに、次第に濃厚なキスへと変わっていく。 「んっ……んぅ……」  止められない。唇を離したくない。諒大の首に両腕を回して、諒大を引き寄せるようにして激しいキスを交わす。 「はぁっ……颯さんっ……」 「諒大さ……んっ……」  吐息混じりに名前を呼び合って、何度もキスを繰り返す。 「んっ……ふ…ぅ……」  諒大とのキスに頭がじんとする。敏感な口内を諒大の熱い舌で犯されて、気持ちがよすぎて全身から力が抜けていく。よろめく身体は諒大が腰を抱き、支えてくれる。 「颯さん、苦しい……? こんな狭いところですみません……」  諒大が颯を気遣い、唇を離す。キスがうまくない颯は、どうしてもキスの途中で息つぎがうまくできない。 「だ、大丈夫、苦しくないからやめないで……」  唇が離れた途端、急に寂しくなった。諒大ともっと繋がっていたい。 「お願い……」  颯は懇願する。やっと諒大とお互いの気持ちを交わせたのだから、もっとしてほしい。もっと、もっと、諒大と、この先まで——。 「颯さんにそんな顔で見つめられたら、俺、我慢できませんよ」  再び諒大からキスを受ける。深いキスをされながら、諒大の手が颯の服の隙間から侵入してくる。諒大の熱い手は、服をめくりあげながら颯の肌を艶めかしく這う。 「颯さん、すみません。俺は颯さんと離れられません。このままうちに泊まりに来ませんか?」  颯は頷く。颯も離れがたいと思っていたが、諒大も同じことを思ってくれていたようだ。 「諒大さんと一緒がいいです……好き。好きです。大好き……」  諒大とこうしていられるなんて奇跡だ。  今度こそ諒大に愛を伝えたい。何があっても離れないようにしたい。諒大のことを一生大切にする。  何度巻き戻っても、諒大のことを想う。最高の運命の番を離さない。

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