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番外編

「俺、神さまっていると信じていて」  神社の砂利の上を歩きながら諒大は語り出す。 「良いことをすると、それが巡り巡って自分に返ってくるのかなって思っています」 「そうですね。そうなるといいですね」  颯もそう思う。人に親切にする、優しい人は報われるべきだ。 「だから、いい人キャンペーンをするんです」 「いい人キャンペーン!?」 「はい。徳を積む、みたいなイメージでしょうか。わかりやすいものだとボランティアや寄付。仕事の得意先の人、同僚、友人、家族、俺の周囲にいる人たちをなるべく笑顔にする。そうしてポイントを日々貯めていくんです」 「へぇ……」  諒大は面白い思考の持ち主だと思った。人に親切にすることをポイントだなんて思ったこともなかった。 「それで、ポイントが貯まると神さまが願いをひとつ叶えてくれる。奇跡みたいな願いでも、神さまだから叶えてくれるんです」  諒大は「こんな話、信じないでしょ」と笑う。神社の木漏れ日のなか、微笑むその笑顔は、本当に素敵だった。 「いいと思いますよ。じゃあ、いつか諒大さんの願いは叶いますね」  諒大の親切が神さまポイントになり、願いが叶うといいなと思った。  諒大は優しい人だから、きっといい人キャンペーンのポイントはたくさん貯まっていることだろう。 「それが、つい最近、叶っちゃったんですよ」  諒大は颯に優しく微笑みかけてくる。 「え……?」 「叶っちゃったんです。今、この瞬間も、俺の願いが叶っているところです」 「今も……?」  颯にはわからない。諒大の叶った願いとはなんなのだろう。 「だからこれ以上を望んだら贅沢なのかもしれません。好きになってもらえなくても、それでも、話ができて、笑顔が見られる今で満足しなくちゃなぁ。失う未来より、今のほうがずっとずっと楽しくて、幸せなんだから」  諒大は意味深な笑みを颯に向ける。 「ねぇ、それってどういう意味——」 「あ! そうそう! 神さまに願いを叶えてくれたことのお礼をしたんです。だから長くなってしまいました。こんな大きな願いを叶えてくれたんだから、俺のポイントは間違いなくゼロになりました。ここからまた毎日いい事をして貯めていかなくちゃ」  颯の小さな声は諒大の声でかき消され、そのうち別の話になり、うやむやになってしまった。結局、諒大の『叶った願い』についてはわからずじまいだ。 (諒大さんの願いって何だったんだろう……)  諒大はなんでも持っているような男だ。そんな諒大が欲しがるものなんて思いつかない。 (好きになってもらえなくてもって……諒大さんなら誰だって好きになるよ)  諒大のことだ。何もかも、きっとうまくいくに違いない。 (諒大さんはどうか幸せになって。もしも僕にも神さまポイントがあるのなら、僕のぶんも諒大さんにあげるから)  颯はすぐ近くにいる、諒大の笑顔を眺めながら深いため息をつく。  諒大の幸せのためにも、颯は身を引くべきだ。颯はどう見たって諒大には不釣り合いな出来損ないオメガなのだから。

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