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番外編2『可愛いオメガに手は出せない』

 今日こそは絶対に手は出さない。  諒大は反省の意味を込めて、その言葉を何度も頭の中で反芻する。  颯と付き合うようになってから、思い返すと毎回デートのたびに颯に手を出している。隙さえあれば颯に触っているし、別れ際にはさみしすぎてついついキスをしたくなる。お泊りも大丈夫だと知ればホテルや諒大の家に誘い、その日の夜は必ずセックスに持ち込む。 (俺、最悪な男だ……)  これは絶対によくない。身体目的で会いたがる男だと思われているんじゃないだろうか。  颯は嫌でも自分の中にそういう感情を押し込めて、我慢してしまうタイプだ。本当はベタベタされたくなくても無理して笑って合わせようとしてくれているのでは。  そしていつか我慢の限界がきて、颯は黙って諒大の前からいなくなり――。 「うわあぁぁっ!」  想像しただけで、恐ろしくなってつい声が出る。  下心満載の男と、紳士的で余裕のある男、どっちがいいかなんて一目瞭然だ。年下とはいえ、颯とは四歳しか違わない。二十六歳も三十歳もどちらも大人の男だ。ここは、颯をリードできるようなジェントルマンな男を目指さねば。 (颯さんから言われるまでは、手は出さない。颯さんが俺を望んでくれたときだけにする)  呪文のように心の中で何度も唱えてから、諒大は車を降りた。  今日は颯とデートだ。夕方から光と音で作られた体験型ミュージアムに行くことになっていて、そのあと十九時から近くのレストランを予約してある。颯には「夕食の店も適当に選んでおきますね」と軽い感じで伝えたが、本当はめちゃくちゃリサーチして、かなり前から人気店の予約を押さえている。  それにプレゼントも用意した。誕生日でもなんでもないので、「仕事帰りに歩いてたら、たまたま颯さんが欲しがっていたものが売っていたので買いました」を装うつもりだが、実はその商品はすぐに売り切れになってしまい、他店舗から取り寄せをお願いしてなんとか手に入れた品物だ。  今日はリモート勤務にしたため、服はスーツではなく私服。全部、この日のために新調した服だ。初夏らしい軽めのジャケットを羽織って、大人っぽい雰囲気を目指した。できることなら颯よりも年上に見られたい。 「諒大さんっ」  聞き覚えのある、透きとおった声で名前を呼ばれて振り返ると、にこにこと笑顔の颯がいた。   颯は華奢な身体を隠すかのように、オーバーサイズのTシャツとゆったりとしたズボンを身に着けている。その様子が可愛らしくて、思わず抱きしめたくなる。  でもダメだ。会っていきなりハグはしちゃいけない。 「颯さん。今日も可愛い」 「えっ? そ、そんなことないです……」  謙遜する颯は、顔を真っ赤にしてアワアワと手を横に振る。ちょっと褒めただけで顔を赤らめて可愛い反応をする颯がたまらく愛おしい。 「諒大さんこそ、すごくかっこいいです。スーツのときもいいけど、私服のときの諒大さんも素敵です」  気合いの入りまくった私服を褒められて、諒大の心が跳ねる。  よかった。頑張った甲斐があった。 「ありがとうございます、颯さん。俺、褒められて舞い上がりそうです」 「ええっ、諒大さんはいつもかっこいいって言われてるでしょ」 「颯さんから言われることが嬉しいんですよ、だって颯さんは俺の特別だから」  にっこり微笑みかけると、颯はわかりやすく照れる。その仕草が抱きしめたいほど可愛いが、手は出さないようにしなければ。 「行きましょうか」  助手席のドアを開けて、颯を促す。颯は素直に車に乗ってくれた。  こんなふうに当たり前にしてくれることが嬉しい。付き合う前は、簡単には車に乗ってくれなかった。  運転席につき、車を走らせる。ふと左隣を見ると颯がいて、目が合うと笑いかけてくれる。 (最高すぎる)  この幸せ、一生守り抜きたい。

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