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番外編

 それから予約しておいたレストランに颯を連れて行く。オールデイダイニングレストランで、料理もカフェメニューもどちらも美味しいという人気店だ。  席は夜景の見えるカウンター席。つまり、ふたりは窓に向かって横並びで座っている。 「スフレパンケーキも頼んでいいですか?」 「はい。それならコースにしないでアラカルトで好きなもの頼みましょう。俺、コレ気になるな」  諒大がメニューの前菜のひとつを指差すと、颯が「おいしそうですね、それにしましょう」と賛成してくれた。  注文が終わり、やがてワインと料理が順に運ばれてくる。諒大が料理を取り分けて、颯の目の前に皿を差し出すと、颯は「ありがとう諒大さん」と、笑顔を返してくれる。  なによりも可愛いのは、料理を食べながら表情がコロコロ変わるところだ。 「こんなにおいしそうに食べてくれたら、料理を作った人も嬉しいでしょうね」  目の前にいる愛しい恋人を眺めながらつい思ったことを口にしてしまった。颯はびっくりしたのか「がっついてしまってすみませんっ」と背中を縮こませた。 「いいんです、好きなだけ食べて。颯さんと食事をすると料理がすごく魅力的に見えるんですよね。いつもの何倍もおいしくなる」  これはお世辞ではない。おいしいおいしいと食べてくれるから、諒大までそう感じるようになる。 「今度、俺の知り合いのやってる店に行きませんか? こんなにおいしそうに食べてくれたら絶対に喜ぶと思うんですよね」 「えっ、恥ずかしいです! 僕は相手が諒大さんだから落ち着くんです。知らない人の前だと緊張してしまって料理も喉を通らないかも……」 「俺ならいいの?」 「はい。諒大さんは僕の特別な人なんです。人見知りなんだけど、諒大さんはすごく話しやすくて……あ、あの……」  颯は言葉を詰まらせる。  こういうときは急かさない。少し待っていると、颯はごくんと唾を飲み込んだあと、再び口を開いた。 「好き、です。とても」  はにかみながらも、目を見て気持ちを伝えてくれる。それが泣きそうなくらいに嬉しくて、完全に心を撃ち抜かれた。 (かっ、可愛い、可愛すぎる!)  今すぐ颯に触れたいと全身が叫んでいる。せめて手を握るくらいさせてほしいと脳内で葛藤する。  でも、ダメだ。  諒大はジェントルマンに、颯の耳に口元を寄せる。 「俺も好きです。颯さんのこと大好き」  そっと愛を囁くと、颯の耳が急に真っ赤になる。 「も、もう。諒大さんたら」  恥ずかしそうにしてるものの、ちょっと口角が上がっているのがわかる。  可愛い。何もかもが可愛い。 「なんか、お互いが好きってすごいことですね」  颯は照れながらも微笑みかけてきた。 「はい。俺もそう思います。颯さんとこうしていられるのは奇跡なんだなって」  ここまでくるのに、本当にいろんなことがあった。  もう絶対に離れない。颯を離すものか。 「ありがとう諒大さん。僕のそばにいてくれて」  颯が身体を傾けて、諒大の肩に寄りかかってきた。 (えっ……)  こんなことは初めてだ。颯のほうから甘えてきてくれるなんて。  しかもここはレストランだ。店内の照明は暗めだけれども、完全に人の目がないわけじゃない。  そんなところで触れてくるなんて。 (やっっば。好き)  颯のことは前々からもちろん好きだった。でも今、また颯のことを好きになる。心が鷲掴みにされる。  今すぐ肩を抱きたい。颯にキスしたい。  触れられないことがこんなに苦しいとは。紳士に振る舞うのは楽じゃない。  しばらく無言で身を寄せていたが、やがて颯は「寄りかかってごめんなさい」と離れてしまった。 「いいえ、いつでも俺を頼ってください」  よし。大人の男っぽいセリフだ。ここからかっこよくリードすれば完璧だ。 「颯さん、そろそろ帰りますか?」 「えっ? あ、はい……」  諒大は右手を挙げて、ウェイターに合図を送る。それからスマートに「チェックお願いします」と伝えた。  諒大は運転のため、ノンアルコールしか口にしなかった。それに対して颯は珍しくお酒が飲みたいとアルコールを飲んでいた。  今、気付いたが、今日の颯はいつもよりお酒が進んでいる。  これは早く家に帰りたいだろう。今回の目的は体験型ミュージアムに行くことだったしそれは達成したのだから。 「今日は楽しかったです。また次の休みのときにデートしましょうね」  車を運転しながら、颯にデートが楽しかったことを伝える。  こういう自分の気持ちははっきりと伝えるべきだ。それが次のデートにつながるはず。 「楽しかったですね。今度は諒大さんが行きたいところに行きませんか?」 「俺のっ?」 「はい。だって今日は僕の行きたいところに連れていってくれたから、今度は諒大さんの番でしょ? 諒大さん、どこか行きたいところありますか?」  ある。実は、人生で一度でいいからラブホに行ってみたいと思っている。  でもそんなこと口が裂けても言えない。 「水族館とかどうですか?」 「いいですね、僕、お魚好きです」  よし。一般的な回答はこっちだ。颯は純粋だからそんな場所に誘ってはいけない。  やがて颯のアパートに到着し、諒大はいつもどおりに車を近くのパーキングに止め、颯をアパートの部屋の前まで送る。  颯はドアを開けて、アパートの玄関へと入った。諒大はその寸前で止まる。  別れ際はどうしても名残惜しくなる。  特に、今日は颯に触れていないから、余計に。 「颯さん、おやすみなさい。また電話しますね」  ここでお別れだと思っていた。  それなのに、颯が諒大の手を掴んだ。 「あっ、あの……」 「何? どうしたの颯さん」 「お、お茶、飲んでいきませんか……」 「お茶っ?」  思ってもみないことを言われて、思わず聞き返す。  普段、颯は「狭くて汚いから」と言ってあまり積極的に部屋に入れてくれない。  これはどういうことか。 「さ、誘ってるの。諒大さんのこと。これ以上は恥ずかしくて言えないから察して……」 (はっ?)  ダメだ。颯が可愛すぎて理性がもたない。 「颯さん。それって」  諒大はいきなり颯の両手首を掴んで玄関の壁に押し付ける。 「俺と、したいってこと?」  そう言うと、顔を真っ赤にしながら颯が視線で頷いた。 「今日の諒大さん、全然僕に触ってくれなくて……」  颯は気付いていたのだ。諒大が極力触れないようにしていたことに。  それで、こんなにさみしそうな顔をしてくれるなんて。 「僕のこと、嫌いになっちゃった……?」  玄関のドアが閉まる音がした。それを合図にするかのように、諒大は颯の唇を奪う。 「好きです。好きすぎて、俺、おかしくなる……」  諒大、完落ち。  こんなの、我慢できるわけがないだろ。 番外編『可愛いオメガに手は出せない』完。

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