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番外編
「ごめんなさい」
諒大はふわっと抱きしめてきた。
「心配にさせた俺が悪い。颯さんが怒って当然です」
大好きな腕の中に閉じ込められて、ついうっとりしてしまう。でも、ここはショッピングモールの通路だ。颯はやんわりと諒大の身体を退ける。
「今のは本当の我が儘?」
「はいっ?」
「今日の颯さん、なんか無理して我が儘を言おうとしてるなーって思っていました。何か、事情があったんですか?」
「バレてる……」
全部バレている。諒大には何もかもお見通しだ。
「実は、ケンカがしたくて……」
颯は事情を打ち明けた。結婚前に本音を言えないようでは、結婚生活がうまくいかないと聞いたことを。
「まいったな。颯さんがしたいなら、頑張ってケンカをしなくちゃ」
諒大は爽やかな風のように笑う。
「では颯さん。今から俺の本音をあなたにぶつけてもいいですか?」
「あっ、はいっ!」
(あったんだ。諒大さんにも僕に対する不満が……)
急にドキドキしてきた。
根暗なところが嫌だとか言われたらどうしよう。ウジウジするところがキモいとかだったら困ってしまう。陰キャが急に陽キャになれるわけもないのに。
貧相な身体が嫌だと言われたらどうしよう。ご飯は食べているけど、太らない体質なのに。
諒大が一歩、距離を詰めてきた。
何を言われるかと覚悟していたとき、諒大は唇を寄せ、颯の唇にキスをした。
本当に一瞬だけ。
「なっ……」
こんなところでキスをされるとは思わず、颯は顔を真っ赤にしてあたふたする。頭が真っ白になって、ただ胸の音がうるさくなるなっていて、この状態をどうしたらいいのかわからない。
「俺ね、今日、颯さんとお泊りしたい」
綺麗な顔で迫られて、颯はタジタジだ。
「俺、颯さんが思っている以上に性欲あります。今日だって、颯さんをこのあとどうやったらお持ち帰りできるか、そればかり考えていたんですから」
「え、あれでっ?」
終始めちゃくちゃ紳士的だったのに、あの顔でお持ち帰りすることを考えていたとは想像もしなかった。
「アルファはみんな狼です。ということで、今からホテルに連れ込んでもいいですか」
諒大は颯の手を掴んで駐車場へとつながる連絡通路をぐんぐん進む。
「とういうこと、って何っ?」
おかしい。何かがおかしい。いつもの諒大らしくない。
こんなに強引な人じゃない。
「途中コンビニに寄りましょう」
「待って、諒大さんっ」
引っ張られる格好が歩きにくくて、颯は諒大を止める。振り返った諒大は、颯から手を離して嘘みたいに完璧な笑顔をしてみせた。
「やだな、冗談ですよ、颯さん」
「じょ、冗談?」
本当に冗談なのだろうか。
「急にお泊りなんて嫌ですよね。安心してください。ちゃんと家までお送りします」
「違くて、あのっ……」
今なら諒大のことがわかるようになった。諒大は底抜けに優しいから、颯が少しでも嫌がることは絶対にしない。
自分自身をどんなに犠牲にしても、颯のことを思い遣ってくれる。
だから、今、多分、諒大は我慢している。
今回のデートも一週間ぶりだ。颯も男だからわかる。しばらく間があくと、ムラムラするというか、人肌恋しくなるというか。
颯だって朝まで諒大と過ごせたらと思うけど、そんなことを口にするのはすごく恥ずかしい。
でも、諒大にならきっと本音をぶつけられる。
「あ、あのですねっ。僕、お泊りセット、持ってきてます」
「うあぁんっ?」
颯のひと言に、イケメン諒大が見たこともない顔をした。
「りょ、諒大さんといい雰囲気になったら、お泊りすることになるかもって思って……替えの下着も持ってます。だからホテルに直行で、いいです」
「はあぁっ? いいんですか!」
諒大が「待って」と胸を抑えて自分の中の何かを整えている。
「可愛すぎるでしょ、颯さん。ホントすごいな。俺の想像を簡単に飛び越えてくる」
諒大は颯に寄りかかるように抱きしめてくる。
「ケンカはお預けですね。だって颯さん、俺が本音を言っても応えてくれちゃうから、ケンカになりません」
その日の夜は、上機嫌な諒大のせいで大いに盛り上がった。次の日「ケンカできなかった」と首にキス痕をつけて出勤したら、「一生無理かもしれませんね」と岸屋に呆れられたのは言うまでもない。
番外編3『本音を聞かせて』完。
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