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第5話

そこそこ新しくて、そこそこ廃れてるアパートの一室。安達は、鍵を取り出すとガチャリと開錠する。 「どうぞ~。」 ドアを開け中へ案内されたので、一言挨拶してから玄関に入ると、予想に反して単身用の部屋にみえる。 「もしかして一人暮らし?」 「あれ、言ってなかったですか?」 「え!お前一人暮らしなの!?凄いな!」 毛足の短いラグの上に小さめのローテーブル。テレビは無いが少し大きめのチェストが一つ。ベッドの上の布団もちゃんと整えられていて、家具は全て青系統で統一されている。 男子高校生らしく家事能力の無い瀧藤は、綺麗に整頓されている様子を見て、頻りに褒めている。 斯く言う俺も、普段の様子からは想像できずに意外に思う。安達の新たな一面を知った。 「ちょっと待ってくださいねー。はい、これどうですか?」 安達がチェストからバスタオルを取り出した。 顔の前に差し出してくれたので、遠慮なく鼻を近づける。 「…………ん?この匂いじゃないよ。」 「え!これ昨日洗ったばかりのヤツですよ?」 こてん、と二人して小首を傾げていると、わざとらしい咳払いが聞こえる。見ると、妙に恥ずかしそうな瀧藤が、歯切れ悪く切り出した。 「あーーーー。漣が好きなのは、安達が使ってる柔軟剤じゃないんだろ。」 「「……?」」 「だから!体臭が好きなんじゃねーの!?安達の!!!」 「「……!」」 成る程。洗濯したばかりだから、このバスタオルからは殆ど安達の匂いがしないわけだ。 合点がいった俺は、安達に向き直り極々真面目に言う。 「じゃあ、脱いで。」 「「はい!?」」 「今着てる服が一番匂うってことでしょ。ほら、脱いで。」 「な、なんか僕が臭いみたいになってる!」 「落ち着け、漣!それは完全に変態だぞ!!」 「脱がないの?じゃあ、脱がす。」 煩い二人は無視して、俺は自分の望みを叶えるため、追い剥ぎの如く安達の服を毟っていく。 「キャ~~~~!!!」 「なんでお前は変なところで男前なわけ!?」 毟り取った服をかき集めて顔を埋め、思いっきり息を吸い込んだら、ふんわりといつもの眠気がやって来た。 「………ん。この匂い。」 「もうお嫁にいけないっ!」 「…………ツッコミ疲れたよ、俺は。」 すんすんと嗅ぎながら夢と現を行き来していると、我儘がひとつ出てきた。 「なんか、これ、硬い。」 「え?あ~、制服ですからね。パジャマとかにしますか?」 パジャマ。それ、いいじゃん。 コクコク頷いて催促する。 「かっわいいなぁ、もう!」 「…………砂糖吐きそう。」 手渡された冬用のパジャマは、制服なんか比べ物にならない程肌触りが良い。 こちらからも安達の匂いがすることを確認した俺は、忘れないように鞄へ仕舞った。

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