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第6話
連絡先とパジャマ。目的のものは手に入った。特に居座る理由も無いし帰ろうと、安達に一声かける。
「え。」
瀧藤に続いて腰を上げると、キョトンとした目がこちらを向いた。
「パジャマありがと。あと、お邪魔しました。」
「お邪魔しました~。」
気に留めることなく帰ろうとすると、いつかのように腕をとられ、たたらを踏む。
「ま、待って!待ってください!」
何故か悲痛に聞こえる声に原因を考えようとして、振り返った。
「!」
見えた安達が今にも泣き出しそうで、思考が飛んだ。
「折角だし泊っていきませんか!契約違反は嫌なので、瀧藤先輩も!!」
「え、俺も?」
俺の後ろにいる瀧藤には、安達の顔は見えないのだろう。安達の思惑が分からず怪訝そうな声が聞こえる。
「いいよ、別に。まだ全然家に帰れる時間だし。」
「う、でもほら、これから二週間抱き枕無しですし!最後にしっかり眠って頂こうかなって!」
「いや、お前無しでもいいようにアイテム取りに来たんだけど。」
でも俺は、涙で潤むその目があの時の仄暗い目に見えて、なんとなくだけど理解した。
「あ、う。そう、なんです、けど。」
「大体、この部屋に三人は狭いだろ?」
ひとりが、嫌なんだ、安達は。
「………………そう、ですよね。すいません!」
「安達。」
「ちょっと欲出しすぎました!!」
「安達。」
「3学期まで我慢しまs」
「俺、泊まりたい。」
「………す。」
途端に大きな大きな瞳が、もっと大きくなってこっちを見る。
俯いていた顔を上げた反動で、一粒だけ零れている涙を親指で拭ってやり、言葉を続けた。
「安達が良いなら、抱き枕、お願いしようかな。」
「っ、ぜひ!」
ぐっと息を詰めた安達が、幸せそうに微笑んだ。
その目に未だ残っている涙が嬉しそうにキラキラと輝いている。
それを見て一つ、発見した。
俺、多分、安達が泣くのはあんまり好きじゃないんだ。
「えー?着替えとか無いだろ。」
「下着ぐらいならコンビニにありますよ!僕買ってきますから!!」
ごもっともの意見を言う瀧藤に、俺からも頼む。
「っあーーーもう!しかたねぇなぁ~。」
瀧藤の了解を得ると、慌てて財布を引っ掴んだ安達。行ってきますと噛み締める様に言って、大慌てでコンビニへと出かけて行った。
安達を見送った瀧藤が、面倒そうにボリボリ頭を掻いてボヤく。
「つーか晩飯も無いだろ、絶対。」
「確かに。」
「布団も足りない気がするぞ。」
「風邪引くかもだ。」
安達の涙で濡れた親指を、何と無しに眺めつつ返事を返していると、隣から深い溜息が聞こえる。
「貸し、30だから。」
「うん。ありがと。」
「はぁ~~~~~。じゃあ、俺、安達追っかけて飯買ってくるわ。」
「ありがと。」
玄関扉が閉じる。
一人きりになった部屋はとても静かで、俺にはまだ一人暮らしなんて出来そうにもない。
少し、心寂しくなった気がする。
俺は鞄から良い匂いのするパジャマを取り出し、もう一度顔を埋めた。
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