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第7話

急遽開催された用意不足のお泊り会は、いつもの空き教室での時間のようにゆったりと過ぎた。 ずっと腕の中にいた安達は楽しそうに瀧藤と話し続け、俺は心地よい眠気の中たまに会話に参加する。 日向ぼっこし続けているような感覚は、とても気持ちが良い。 「痛い痛い痛い…!」 「お~き~て~~~!」 「わかった!まだ寝ないから、ぐりぐりヤメロ。」 寝ようとすると、腹深くまで頭を埋めてくる安達に邪魔されるので、眠れはしなかったけれど。 いつもならイチャつくなと煩い瀧藤も、完全に隔離された空間だからか、溜息は多かったものの何も言ってこなかった。 狭い部屋で、小さいローテーブルを囲み、適当なコンビニ飯で腹を満たす。 「おい、安達、肘当たってんだけど。」 「すいません~~~。」 「謝る気あるのか、おい!」 うん。人口密度のおかげで寒さも気にならない。 「………お前、テンション高くないか?」 「だって、なんか秘密基地にいるみたいじゃないですか!」 なんて、小さい子どもみたいなことを言う安達に瀧藤と顔を見合わせて笑った。 特に夜更かしすることもなく、奇跡的にあった布団一式に瀧藤が、ベットに俺と安達が横になる。 「二人で一つ屋根の下なのに、セックスの一つもないなんて。」 「俺のこと忘れてんなよ。」 「観客の一人や二人、スパイス程度にしかなりませんよ!」 「「寝ろ。」」 俺にそんな趣味は無い。 もごもごと布団に入っても煩い安達の声でさえ、俺にとっては子守唄のようなもの。数分と経たず眠ってしまう。 輪郭は無かったけれど、ほっこり温かい、幸せな夢を見た気がする。 俺は今年最後の抱き枕を堪能した。 翌朝。 安達の声で目覚めると思いきや、瀧藤の腹の虫が煩くて目が覚め、朝から三人で大爆笑。 霞んでない視界が久しぶりで、改めて抱き枕の凄さを知る。 玄関前、少しかしこまって後輩らしく頭を下げた安達。 「我がまま聞いてくれて、ありがとうございました!」 運動部みたいなノリにびっくりして反応できずにいると、その小さな頭をガシガシ撫でた瀧藤が、ニカリと笑う。 「たまになら泊ってやってもいいぞ。」 ちょっとドヤ顔が煩いけど、多分照れ隠しの表れだ。色々あったとしても、やっぱり先輩として安達が可愛いんだろう。 すると、ぐわっと勢いよく安達の頭が上がり、輝かしくも少し嘘っぽい表情で言った。 「チェンジで!」 「………は?」 「漣先輩だけ有難く頂きます!」 「お。頂かれた。」 「はぁ~!?」 途端、騒がしくなる会話。 二人にはこのくらいの距離感が丁度良いのかもしれない。 とは言っても、 「廊下で騒がない。」 「「いだっ!!!」」 人様に迷惑をかける場所ではやめなさい。

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