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第8話

パジャマ効果は絶大だった。 安達家でのお泊りから、約二週間。俺は毎晩パジャマを抱き締めている。 本物の抱き枕では無いから毎日眠れているわけでは無いけれど、ニ、三日に一度、質のいい睡眠をとることが出来る。 快く貸し出してくれた安達には、感謝しかない。 ただ気になっているのは、匂いが薄くなってきたこと。 段々眠りも浅くなってきているし、どうしようか。 シャワーを浴びながら考えていると、ドア越しに母の声が聞こえてきた。 「温人~、アンタさっきから鳴ってるよ。」 「ん~~?」 「ケータイ!ずっと鳴ってるから電話なんじゃない?」 え、電話? 自慢じゃないが面倒くさがりの俺に電話なんてめったにかかってこない。 何か緊急の用事でもあるのかもしれないと、慌てて泡を流した。 急いで脱衣所に出て、適当にタオルで水気を拭い、下着だけ履いてリビングへ向かう。 母に手渡されたスマホの画面を見ると、発信先は安達だった。 「一回切れたんだけど、累君またかけてくれたみたい。何か大事な話でもあるんじゃない?」 「ほんと?助かった、ありがと。」 なんだろう。また一人暮らしが寂しくなってきたのだろうか。 通話ボタンを押しながら自室へ向かう。 「あーーもしもし、安達?」 ………応答が無い。 不思議に思いボタンを押し間違えたかと画面を見るも、どうやらちゃんと繋がっている。 もう一度、携帯を耳に当てて問いかける。 「安達?なんかあった?」 「!!」 今度は息を吸い込んだ音が聞こえた。 細く長く息を吐く音がする。 どうやら、えらく大きい深呼吸をしているようだ。 暫く返答を待っていると、少し緊張した耳馴染みのある声が聞こえてきた。 「あのー、今、時間大丈夫ですか?」 「俺は大丈夫だけど、お前は?」 「あ!すいません!ちょっと、電話越しに聞く先輩の声にときめいてました。」 ………………ときめいてましたか。 別にいつもと変わらないと思うけど、そのあたりの機微は苦手だから放っておこう。 部屋に入り、机にスマホを置きスピーカー機能をオンにする。 スウェットに着替えながら、何か用があったのかと安達に問いかけた。 「用事はー、特に無いんですけど。」 「無いの。」 「あれから結局一回も電話来ないんで、先輩眠れてるかな~と思って。」 「あ~。」 俺の睡眠周期に安達を付き合わせるのも悪いと思い、連絡はとっていなかった。というか普段からあんまり人と連絡しないから、タイミングが掴みづらいんだよなぁ。 何と言えばいいかわからず唸っていると、不満げな声も聞こえてきた。

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