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第11話

機械越しに、聞こえる。 衣擦れの音。荒い呼吸音。そして艶やかな声。 「はぁ~~、ふふ。興奮するっ。」 俺は願いを聞き入れ、今、スマホの向こう側で安達は自慰をしている。 元はと言えば、俺が二週間も携帯を放ったらかしにしていたせいだ。 それに、俺がスるならともかくシているのは安達で、俺は、ただ聞いていればいいのだから。 「んっ、僕ね、乳首舐められるのっ好きなんです。」 「……そうか。」 「でも自分で、ンっするときはぁ~、舐められないからっ、ざんねん。」 安達は自分の身体を弄っているようだ。 ………聞いてもないことを、俺に語りながら。 肌と肌を合わせるのが好き。 大きな手で頭を撫でられるのが好き。 耳たぶを甘噛みされるのが好き。 優しくても、大胆でも、キスされるのが好き。 叩かれるのは嫌い。 苦しいのも嫌い。 我慢だって大っ嫌い。 でも、 「先輩にっだったら、ッ全部、うれしーーーーっ。」 軽くイったのか、小さく息をつめた安達。 荒く、浅くなった息を整える為、暫くは無言だった。 次に聞こえてきたのは、安達の声に混じった、粘着質な音。 「せんぱい、聞こえる?ぐちゅぐちゅって。」 「………聞こえるよ。」 「ローション!もう我慢できないから、お尻の周りにべったりつけちゃった。」 語尾にハートでも付きそうな声。 悪戯に笑う安達が見えて、知らない間に閉じていた瞼を急いで開ける。 「ンンッ!解れてきたぁ~。じゃ~あ、まずは指いっぽんっ。」 静まり返った我が家。 両親とも夜更かしする人達では無いから、もう、一階の寝室で寝ているだろう。 今、この家で意識があるのは俺だけだ。 そのことが、何とも言えない後ろめたさを膨らませていく。 「ぁーーー。ん、いっぽんは余裕だから、にほん、んん~。」 アパートの壁が薄いのを気にしてか、押し込められた喘ぎ声。 屋上でも、体育倉庫でも気持ちよさそうに声に出していたから、なんというか、新鮮だ。 「アナルって~解す、のに時間かか、るんですっ。だからコレ!ディールードー!!」 秘密道具のように紹介した安達は、また聞いてもないことを教えてくれる。 「先輩とシてから、いっふょーへんめー探して、見つけたんですよ〜、先輩のそっくりさん!!」 フェラ、しているのだろう。少し舌ったらずになった。 ちゅっ、というリップ音が耳元から脳に木霊する。 涎を啜る下品な音が、しん、とした部屋に響く。 「っぷぁ、はあ~~~。」 「…………。」 「せんぱぃ、きこえてる?」 「……聞こえてるよ。」 少しずつ。けれど確実に、何かの階段を降りているような感覚。 行きつく先の想像もつかないが、足を止めることは出来そうにない。

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