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第12話
入り口が柔らかくなり、スムーズに動かせるようになったのだろう。
ぐちゅり、ぬちゅり、という音が、ぐちゅぐちゅ、ぬちゅぬちゅ、と小刻みなものに変わってくる。
「んあっ、後ろ解れてきたから、コレ、いれますね~、……ンンンッ!」
宣言の後、少し苦し気に呻いた安達。
俺に知識なんて無いけれど、やっぱり出す器官に入れるっていうのは相当なものなんだろう。
それを乗り越えた先にあるから、価値があるのかもしれない。
「ン、はいったぁ~。…ふふっ、全部食べちゃいました~!」
それにしても、この語彙力。補修常習犯のくせして、セックスのことだけは本当に詳しい。
きっと知識も、経験も、実績も、そんじょそこらのAV女優に引けを取らないんだろう。
今も、お腹いっぱいだ、穴が伸びきっちゃうだ、言っている。………よくも、恥ずかしげなく言えるもんだ。
ディルドに馴染むまで、少しのインターバルを挟んで安達の自慰は続く。
「じゃあ、動かしますよ~!」
そこからしばらく、刺激に集中しているのか言葉数がぐっと減った。
「―――――っは、」
始めは息の音。
息が上がってくると、小さく粘着的な音が入る。
「――はぁっ、ふ、ぅ――――ンっぅ、」
段々喘ぎ声が混ざり始めると、ぐちゅぐちゅとローションの音も大きくなってくる。
すると、ふやけきった安達が驚きの行動に出た。
「…っあ、先輩に、も、ッ、聞かせてあげる、ン!」
それだけ言うとゴソゴソと音がして、安達の声が遠くなると同時に、粘着質な音が近づいてくる。
………これ、もしかして、尻の傍にスマホ持っていった?
「ッ!!」
認識した瞬間、顔中にぶわぁぁっと熱が集まる。
だって、コレっ、尻の穴に耳を当ててるってことだろ!!?
「――ァ、ふ――――ン!……ぅ、んんっ。」
ぐぷり、ぬちょり、ずろり。
さっきまで聞こえていなかった音がする。
気泡が割れる、粘液が撹拌される、直腸を擦っているような音が。
どこまでも鮮明に届くその音と、掻き消されそうでもちゃんと聞こえる喘ぎ声が、俺の脳を直撃した。
「っ、ん……ア!っふ―――ぁ、っ、あ!」
このままではいけない気がして、電話を切るべきか迷う。
けれど、その間にも行為は激しさを増していき、喘ぎの間隔も短くなっていく。
「ァ、ぁ、ん、ん、ぅ、ぅ、ン、ンンン!」
思考に霞がかかり、うまく纏まらない。
明らかに早くなった自分の拍動。
いつの間にか握りしめている拳。
体は火照り、喉は渇きを訴えている。
先は暗く、何も見えない。そんな螺旋階段を転がり落ちてしまうようだ。
理性は駄目だと訴えてくるが、今の俺に留まる手立てなんて無い。
留まれるわけがない。
そして、いよいよ、底が見えたその時、
「せんぱい、いる?」
母親を探す迷子の様な声が、俺を現実に引き戻した。
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