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第4話

いつもなら何があっても俺から離れない安達が、瀧藤と二人部屋の隅で話し合っている。 俺には聞かれたくない話なんだろう。 何だか部屋の温度が下がった気がして毛布をもう一枚羽織った。 味のしない弁当をつつきながら、俺は静かに考える。 来栖、って誰だ。 瀧藤の口からその名前が出た瞬間、確かに安達の息が止まってた。安達にとってそれぐらい重要な、若しくは触れられたくない人物なんだ。 なんか嫌だな。 なんでそんな人を瀧藤は知ってるんだろう。なんで俺には教えてくれないんだろう。 ぼんやりと口の中のものを咀嚼しながら考えていると、肺にコールタールがべったり張り付いた気がしてきた。息が、しづらい。 こんな気持ちになったのは、初めてだ。 結局、二人はチャイムが鳴るまでずっと話し込んでいた。 ――――――― ―――― ― 授業中も、下校中も、帰宅してからも黒いモノが消えてくれない。 自室に入り乱雑に制服を脱ぎ捨て、適当な部屋着に着替える。 なにか無理矢理にでも脳を動かしていないといけない気がして、机に今日出た課題を広げた。 けれど、当然上手く解ける訳が無い。 別に苦手な範囲でもないのに何問も躓いてしまい、逆に苛立ってくる始末。 俺は自分を落ち着かせるように深く呼吸して、テレビでも見ようと一階へ降りた。 興味も無い芸人が興味も無い流行のアイドルに絡んでいる。そんなよくあるバラエティー番組をつけて、ソファーに体を預ける。 只々流れてくる音声を右から左に聞き流し、ぼーっと画面を見つめる。 何もしなくても入ってくる情報が思考を遮ってくれるから、俺はしばらくの間そうしていた。 「温人〜、晩ご飯できたよ〜!」 「ん。」 数時間後、母の呼ぶ声に振り返ると、机の上には夕飯が並んでいる。 それを見た途端安達のことを思い出してしまい、また、脳内は言葉の海になった。 悶々とした気持ちのまま、俺は食卓につく。 普段は母と父が席に着くまで待って三人で手を合わせるけれど、今日は何となく気持ちが急いて二人を待つことが出来ない。 そんな俺をみて二人は驚いていたけど、特に何も言われなかった。 母と父の頂きますを聞きながら、俺は今日何度目かも分からない溜息を吐く。 頭の中は ”なんで” しかなくて、気を抜いたら酷い言葉を発してしまいそう。そのドロッとした言葉が溢れてないようにご飯で押し込めていると、ふと、頭に重みを感じた。 「そんなに急がなくたっていいさ。」 俺の横に立った父が、頭に乗せた手を小さく動かしてくる。 「いいんじゃない。偶には落ち込んだって。」 俺の前の席に座った母さんは、幸せそうに微笑んでいる。 あんなに剥がれなかったコールタールの汚れが、きらきらと空気に霧散していく。急に味覚が、嗅覚が機能して、飲み込んだら何かがじんわりと染みた気がした。

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