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第3話

引き戸を開けると安達は既に中にいたようで、いつも通り突進してくるのを受け止める。 「先輩、朝ぶりです!」 「ん。四時間ぐらいしか経って無いけどな。」 「え~四時間”も”会ってないんですよ~。」 ぐりぐりと腹に顔を埋めてくる安達を一旦止めて、ガスストーブの傍に座る。 持ってきた弁当箱の包みを解いていると、スルスルといつもの場所に納まる安達。そして、もう一つの弁当を手に取ると、嬉しそうに笑った。 「えへへ。今日は先輩のお弁当の日だー!!」 「作ってるの母さんだけどな。」 いつものようにスマホを取り出すと、パシャリ。包みを外して、パシャリ。蓋を開けてもう一度、パシャリ。 撮影も終わり、食べ始めようとしたその時。廊下から誰かが走る音が聞こえてきた。 なんだろうか、とドアの方へ目を向けると勢いよく扉が開いて、息も切れ切れな瀧藤がいた。 「あーーだーーちーーくぅーーん?」 なんか、怖くない? 後ろに向日葵でも咲きそうな笑顔だけど、目が笑っていない。 その目が俺の胡坐の中でもぐもぐ口を動かしている安達を見つける。びきり、と音がして瀧藤の米神に青筋が浮かんだ。 「あ、瀧藤先輩。遅かったですね。」 「遅かったですね!じゃねーよ。お前はホント手が早いなこの野郎!!」 「いったーーーー!!!」 スパーンと子気味いい音がした。 「なんで叩くんですか!!」 綺麗に音が鳴っていたからそこまで痛くも無いと思うけど、痛い痛いと言うので安達の頭を撫でておく。 「俺がいなくなった瞬間、あの手この手で仕掛けてきやがって。お前が弁当作ってもらってるってのは分かってんだぞ!」 まるで刑事の取り調べだが、漸く瀧藤が騒いでいる訳が分かった。俺が持ってきた安達の分の弁当のことが気になっていたんだ。 「とりあえずご飯食べよう。」 昼休憩は無限じゃない。 俺は一食抜くぐらい構わないけど、よく食べる瀧藤には応えるだろう。未だ顔に怒っていますの文字はあるものの、瀧藤はパンに噛り付いた。 「で?俺が目を離してる隙に何があったのかな?」 まるで教師のように質問してくる瀧藤。 「今だ!と思って、先輩にお弁当をねだりました!」 「ねだられました。」 優等生のようにビシッと手を挙げる安達に続いて答える。 すると瀧藤の米神にまた青筋が戻り、 「ていっ!」 「っーーーーー!!」 安達に相当痛そうなデコピンを繰りだした。 声も無く涙目で痛みを堪える安達のおでこを撫でてやっていると、やけに真剣な顔つきの瀧藤が安達を見据えて言った。 「来栖先輩達のことで話がある。ちょっとこっちこい。」 ハッと目を見開いた安達は数秒無言で瀧藤の目を見て、頷いた。

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