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第7話
安達の声が消えた一泊後、じっと安達を見ていた先輩が口を開いた。
「付き合うのか。」
「違います。」
「そいつに何か言われたのか。」
食い気味に、けれど無機質に問う男は、視線を安達に固定したままビシリと俺を指差す。
安達はその存在感を揺らがせることなく、落ち着いて答える。
「いいえ。漣先輩は関係ありません。」
「じゃあなんでだよ!」
今度は、黒田が意味が分からないと苛立ち気に怒鳴る。
突然の大声にそれでも一歩も引かない安達は、言った。
「もう、こういう事をしたく無くなったからです。」
良い淀むことなく返され二人がぐっと口を噤むのを見て、安達は真ん中の男に、楠さん、と一声かけて頭を下げた。
「こんな僕のことを好きになってくれてありがとうございます。でも僕が好きなのは漣先輩です。ごめんなさい。」
再び生まれた沈黙の中を、まだまだ冷たい冬の風が、また一つ、通っていく。
二人には安達の覚悟が届いたように見えた。
すると今まで動かなかった男が、つぅーっと目を細めて、ふぅん、と呟いた。
「今更、操でも立てようって?」
馬鹿にした顔で、嘲笑うように吐き出された言葉に安達の肩がピクリと動く。
瀧藤の正面立つその男は一歩足を踏み出し、一言一言に蔑みを乗せて続ける。
「何人、その節操のないケツで食べてきた。何回、どうでもいい人の精子を貰った。」
………安達は、何も言わない。
それを言い返せないと受け取ったのだろう、男は心底愉しそうに軽く笑って言う。
「もうお前の身体に清い部分なんてない。どこもかしこも手垢だらけ。汚いクソビッチが清純派に転向なんて、もう遅いと思うけど~?」
罪人を嗤う悪魔のように告げられた言葉。
俯いたままの安達を見て勝ち誇った笑みを浮かべたソイツは、さらに一歩近寄り何かを言おうとした。
瞬間、辺りの気温がぐっと下がり、三度沈黙が訪れる。
くつくつと笑う声が聞こえ、次第にそれは大きくなって、終いには腹がよじれる程の笑いになった。その異様な様子に、先輩達三人の視線が安達に集まる。
安達は面白くて仕方が無いとばかりに腹を抱えながら、ゆっくりと頭を上げる。
「何を当たり前のことを言ってるんですか来栖さん。」
「!!!」
ほんの数分前まで下碑た笑みで喋っていた男の顔は、驚愕の一色に染まっている。
泣いているとでも思っていたのか、黒田と楠も未だに笑いが止まらない安達に釘付けだ。
「はー!面白い。涙出てきた。」
そう言って涙を拭った安達はしっかり三人に向き直ると、出来の悪い生徒を嘆くかのように溜息を一つついた。
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