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第9話
高校一年の二学期に入ってしばらく経ったある日、前日のセックスで体がだるくてノロノロと遅刻覚悟で登校していた時。
意識を失っている先輩を見つけたのが、僕と先輩の初めての出会い。
向こうは、覚えているはずが無いけど。
高校の最寄り駅を降り学校までの一本道を歩く。足並みは亀よりも遅く三歩歩けば溜息が出てくる。
身体が重い。眠い、しんどい、辛い。なんで僕は真面目に学校へ向かってるんだろう。
何度目かの自問自答は今回も答えが見つからない。遣る瀬無くて頭を掻くと、視界に入った路地に誰かが倒れているのが見えた。
始めは、凄く驚いた。
いかにもな路地裏でぶっ倒れてるから、死んでるかも!とか救急車!とか兎に角テンパった。けど落ち着いて見てみたら怪我してる様子は無いし息はしてるし、ただ眠ってるだけだって分かった。
次に気になったのは、その人の表情。
肌の色は見るからに具合が悪そうで、眉根は苦し気に寄せられている。どう考えても、気持ちよく転寝をしてるようには見えなかった。
何となく放っておくことが出来なくて、僕は高校に電話をかけた。
制服からして俺と同じ学校の生徒だし遅刻の言い訳になるかもしれないと思って。
「あの、一年の安達 累 なんですけど、登校中に青蘭の制服を着た人が路地裏で倒れてるのを見つけちゃって。」
「あ?」
事務員から教職員に繋がれ事情を話すと、ヤクザみたいな声が帰ってきて一瞬ビビる。橘と名乗ったその数学教師はちょっと待ってろ、というと誰かと話しているようだ。
「あーーー今どの辺か説明できるか?」
「駅から学校までの大通りの丁度半分くらいのところです。」
「分かった。俺が迎えに行くから、お前そこで待ってろ。」
ガチャリ。
電話が切れた。あの人ホントに教師なんだろうか。
ちょっと不安ではあるがとりあえずここで待っていればいいだろう。
そう思って問題の人を見ると、額に汗をかいてさっきよりも険しい表情になっている。悪夢でも見ているのかもしれない。
気が付いたら僕はその人の傍にしゃがみ込み、ゆっくり頭を撫でていた。
するとみるみる力が抜けていき柔らかい表情になっていく。
眉間の皺は消え去り、スース―と穏やかな寝息が聞こえ、食いしばっていた口元は緩く弧を描いているように見える。
まるで親を探していた迷子が漸く母親と出会えたかのように心底安心しきった顔。
そのあどけない子どもの様な顔に、僕は恋に落ちてしまったんだ。
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