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第4話

夕食後、リビングのソファに寝転がって思考に(ふけ)る。 好きって、なんだ。 今までたったの一度も恋をしたことがない俺には、あまりにも未知の事。 とにかく毎日眠くて、寝たくなくて、一生この不眠症と付き合っていくんだっていう絶望しか無かったから。 恋心どころか、自分の好き嫌いでさえあやふやにしか自覚していない俺に、そんな複雑な感情に気付けるはずが無い。 今だってまだ瀧藤の言葉を疑っている。 知識としては家族愛や友愛と恋愛は別物だって分かっているけれど、安達に対する気持ちがどこに分類されるのかなんてはっきりしない。 意味もなく頭上に翳した手を握ったり開いたりしてみる。 「だめだ。なんにも分かんねぇ。」 「何が、分かんないの?」 「うわぁ!」 手の平と俺の間に、にゅっと何かが入ってきて思わず勢いよく上半身を起こす。 危ないじゃないと驚いている母さんには悪いが、今ので衝突したとしても自業自得だと思うよ…。 食後のカモミールティーを手に空いたスペースに座った母さんは、悩み事は何だとせっついてくる。 恋バナといえば女性。 身近な女性と言えば母さん。 これは相談してみた方が良いのではないか? 疲れ切った俺の脳は、思春期の息子とは思えない斜め45度の答えを導き出した。 「率直に言うと、」 「うん。」 「瀧藤にお前は安達のことが好きだって言われた。」 「あらーーーー!!」 年甲斐もなく頬に手を当てて高い声を出す母さんは、興奮気味にカップを机に置くと前のめりで質問してくる。 「温人は累君のどこが好きなの!?」 「え、好きなところ?」 俺が安達をそういう意味で好いているという前提で話しかけられて困惑する。 俺の悩み事すっ飛ばされたんだが……。 でも、母さんはキラキラよりギラギラ寄りの目付きでじっと待っているから、反論出来そうにない。 諦めて安達の好きなところを探すことにした。 匂いと声と抱き心地は、抱き枕としてだから恋愛には当てはまらないような気がする。 頭を撫でる度に擦り寄ってくるのは小さい子みたいで可愛いなと思うけど、そこに惚れてるのかと言われると違う気がする。 独りぼっちになるのが極端に苦手なところは庇護欲をそそられるけど、それってつまり母性だよな……。 「んーーーー、分かんない。」 お手上げとばかりに首を振る。 やっぱり俺は安達に恋愛感情なんて無いんじゃないだろうか。 結局またそこに戻ってきてしまって進まない問題に溜息をついた俺を、母さんはケラケラ笑った。

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