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第5話

「そんな顔するぐらい、累君のことが好きなのに?」 「だから、その好きって気持ちが分かんないんだって。」 母さんが言っていることも笑ってる意味も、全然分からない。 「じゃあ温人が累君を抱きしめてるとするでしょー。はい、想像して!」 ギラついた目で睨まれ、渋々言うことをきく。 目を瞑り、安達を抱きしめているところを想像する。 ……駄目だ、安達が突進して抱き着いてくるところしか思い浮かばない。 毎朝、どこかから俺を見つけては全力で駆けてくる安達。 隙間が無くなる程ぎゅっと抱きつかれて、綻ぶような表情で挨拶される。 俺はそれに返事しながら、ぐりぐりと手の平に頭を押し付けて催促してくる安達が満足するまで撫でる。 俺への好意を前面に出してくる安達は、子どもみたいで可愛い。 「……した。」 「次は、累君はそのままで温人を別の人に変えて。」 元気よく楽しそうに飛びついてくる安達をそのままに、俺を適当な誰かに置き換える。 俺の知らない奴に抱き着く嬉しそうな安達。 安達は花を咲かせた満面の笑みで、先輩先輩とソイツに話しかけてている。 ソイツは安達の頭を撫で、安達はその手に擦り寄ってもっととねだる。 俺はそれを、見ている。 「……した。」 「どう?許せる?」 俺は基本的に安達のしたいことはさせてあげたいし、安達の好きなものは受け入れてあげたい。 でも、これは許せない。 眉間に皺が寄るの俺の顔を見て、母さんはまたケラケラと笑った。 「ほらー、こんなに分かりやすいもの!」 「何が。」 「自分にだったら可愛がれるのに、他人にだったら可愛く見えないんでしょ。それが好きってことよ。」 母さんは一口カモミールティーを飲み、続ける。 「アンタ、何で累君の家に泊ったの。」 「え、安達が泊ってほしいって言ったから………?」 「健介君が泊ってって言ったら、健介君の家に泊るの?」 それは……。 「健介君の頼みは断るけど、累君の頼みなら聞くんでしょ。何で?」 空はまだ明るくて家に帰るには充分に時間があった。 泊りの用意なんて無いし、一人用の部屋に三人も泊るのは無理があった。 それでも俺は安達を優先した。瀧藤に頼み込んでまで、泊ったんだ。 なんで。 初めて会った時も安達は泣いてたけど、その時は可哀そうぐらいにしか思わなかった。 けど、あの時は泣かせたくなかった。 なんで。 安達にはなるべく笑っててほしかった。 なんで。 なんで、俺になら許せて、別の奴には許せないのか。 なんで、独りぼっちが嫌だと泣く安達の傍にいてあげたいと思ったのか。 あと少しで飲み込めそうな感情がどこかに突っかかって気持ち悪い。 けれど、脳裏に頬を染めて笑う安達が現れた瞬間、すとんと腹の中に落ちた。 …………あぁ、そうか。俺は、安達が好きなんだ。

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